ピープルフライドストーリー (43) 夢何ん十夜…

【作者コメント:  夏目漱石の「夢十夜」に倣ってのタイトルとした。続きものである(不定期であるが……)。小説というより、映画のためのシナリオとして読んでもらえたらと思う……】


……
……………………………第43回

         夢何ん十夜…

            by 三毛乱

 男の部屋の壁には、「目標達成」「初志貫徹」「一念通天」「一意専心」などと書かれた紙がベタベタと貼られている。そんな中で男は寝ている。
 第一夜。
 夢の中での部屋で男はジーパンの尻ポケットからサッとナイフを取り出して、前に突き出す形を作って、「金を出せッ!!」と声を出す。それを何度も練習する。
 場面が変わって、ある銀行へ、思い詰めた顔の男が入って行く。中に入って、男は尻ポケットからサッと取り出す。だが、ナイフではない…!? 何故かでんでん太鼓を手に持っている。当惑した男の顔。
 近くのベンチソファーから爺さん2人が男が寄って来る。手にはでんでん太鼓を持って、廻しながら男を挟む。爺さん達は笑っている。男も諦めた様に、またはヤケクソになった様に笑いだし、でんでん太鼓も一緒に廻してゆく。その音が大きくなる。

 ガバリと目を覚ます男。ゆっくり起き上がって台所へ行く。蛇口からの水で顔を洗う。顔を拭かないで立ったままでいる。

 第二夜。
 男、部屋の中で黒い目だし帽を頭に被る。ナイフを取り出してから「金を出せッ!!」と言う練習をする。
 夢の中で、銀行に入る瞬間にその帽子を被る。「金を…」と言ってカウンターを見ると、銀行の行員全員が同じ黒い目出し帽を被って男を見ている。そして全員で「いらっしゃいませッ!」と男に大きく声をかける。不気味さと不可解さに圧倒されて男は目出し帽を脱ぐ。

 ガバリと目出し帽を被ったままの男が目を覚まして、蒲団から身を起こす。目出し帽を脱ぐ。汗をかいて、ハアハアと言う顔。

 第三夜。
 夢の中で紙袋を持って銀行へ行く男。中で袋から中国の曲刀のような刀を取り出す。すると銀行員全員弓と矢を持ち上げてキリキリと弓矢を引っ張っる。
 矢が次々と放たれるッ!
 銀行の表に、矢がいっぱい突き刺され、射貫かれた男が出て来て倒れる。這いつくばって血を流しながらも去ろうとする。だが息が絶えた様に遂に動かなくなる。

 ガバリと目を覚まし身を起こす男。額の汗を拭う。

 第四夜。
 夢の中で男は銀行に入る。拳銃を取り出す。カウンターの中には巨大な大砲があり、男を狙っている。男、息を呑む。
 大砲からの発射音!
 男、吹き飛ばされて路上に倒れる。血を流しつつ起き上がろうとするが、すぐに仰向けに倒れて動かなくなる。

 ガバリと目覚めて身を起こし、息を整える男。

 第五夜。
 夢の中で銀行に入る男。コートを脱ぐと爆弾を躰にぐるりと巻き付けている。「死にたくなかったら、金を出せッ!!」と言う。銀行員達の机が、ひな段の様に段階的にせり上がっている舞台にずらりと置かれ、机を前に正面の男を見ながら椅子に座っている。各々の机の上には起爆装置の様な把手があり、行員全員待ち構えていた様に両手で摑み、それを押す。
 爆発音!!
 激しく吹き飛ばされて路上に倒される男。あがくが服はボロボロで血を流したまま息絶える。

 第六夜。
 夢の中で銀行へ行く男。ナイフを出して「金を出せッ!!」と言うと、ガラガラガラと巨大なあみだくじ板が運ばれてくる。銀行員が「これで運命を試してみて下さい」と言う。「当たれば1億円進呈しますよ。どれを選びますか?」
 男が、あみだくじ上のある起点を指さす。ドラマ音が鳴り響いて、選んだあみだくじの線をなぞっていく行員。板の下方には1億という文字が確かに書かれている。だが、男が選んだ線はその1億の隣りに帰着する。そこには“射殺”という文字が書かれている。男の後ろに構えていた警官らしき者が、すぐに男の頭を拳銃で撃つ!

 ガバリと目覚めて起きる男。「ふうー」と息をつく男。

 第七夜。
 夢で銀行へ行く男。銀行前にバーコード頭のカツラが山積みになっている。出て行く客達が皆女性もバーコード頭になっているのに男は気づく。
 入り口で、バーコード頭のカツラでの入店を強要される。なんとかカツラを被って男が入店する。少しずつ進んで、ようやく行列での男の前の人物の頭のバーコードを、行員がコンビニ等で使用するリーダーで読み取る。「おめでとうございます。1億円進呈致します」と言って札束を進呈する。拍手が巻き起こる。次に、男の頭をリーダーで読み取られる。「残念でした。ティッシュ1個を進呈致します」と言われてポケットティッシュを進呈されて路上へと送り出される。男はカツラを脱ごうとするが、どうしても脱げない。女性の行員が「二日間ほど取れません。無理に取ろうとすると首ごと取れる事がございます。お気をつけて下さいませ」とニッコリ言う。男は、入り口にいるその女性行員の顔を振り返りながら、銀行から去っていく。

 ガバリと目覚めて身を起こす男は、手を頭に触れて髪があるのにホッとして安堵する。身を倒してじっと何かを考えている様子。

 第八夜。
 夢の中でパッヘルベルのカノンが流れている。男が銀行に入って来る。1個の青い林檎🍏を持っていてゆっくり囓る。それをスローモーションの如くにゆっくりとカウンター内の受付の女性行員に渡す。第七夜での最後の女性行員である。その女性行員もスローモーションの如くにゆっくり大きく囓る。男にゆっくり返す。男は返された林檎をまたゆっくりスローモーションの如くに囓って、また女性行員にゆっくり渡す。女性行員はまたゆっくり囓って食む。男に返す。カノンが流れる中に、何度も囓られてゆく林檎が男と女の間を行き交う。音楽が止まる。女の口からゴボゴボと胃液にまみれた林檎が吐き出される。

 ガバリと目覚めた男が身を起こす。近くのティッシュを数枚取り出して、口の中の胃液にまみれた固形物をゴボゴボと吐き出す。しばらくその吐き出された物を見つめる。

 第九夜。
 夢の中で男が銀行へ行く。
 店内でナイフを取り出そうとする。すると高らかにファンファーレが鳴り響く。店内アナウンスが入る。
「1億人目の入店者が只今現れました。記念景品として1億円が進呈されます。おめでとうございます」
 男が祝福されて札束を進呈される。男はニヤついた笑顔になる。第六夜で男を射殺した者も、笑顔で男の肩を叩き拍手する。

 目覚めた男を身を起こす。ニヤついた笑顔が消えない。

 第十夜。
 真っ暗闇の空間に札束が舞う。

 
              つづく



          



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