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テレワークにおけるコミュニケーションの課題と対策


株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:渋谷和久)は,緊急事態宣言(7都府県)後のテレワークの実態について,2020年4月10~12日に全国2.5万人規模の調査を実施した。

調査名は「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」である。


大規模な調査の結果,テレワークを実施している人は、「非対面のやりとりは相手の気持ちがわかりにくい」(37%)ということに不安を感じていることが明らかになった。

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オンライン上でのコミュニケーションは声や文字が主体

オンラインによるコミュニケーションは,「コンピュータ媒介型コミュニケーンョン」 (Computer-MediatedCom- munication; 以下,CMCと表記する ) である。

CMCでは,声や文字が主体となるコミュニケーションである。

CMCは,非対面状況における非同期的なコミュニケーションであり,相手のメッセージに対して即時的な反応を必要としないため,自分の伝えたい内容を整理して伝えることができる と言われている(川上他, l993)。
CMCには,そのようなメリットがある反面, 非言語的な手がかりがほとんど伝達されないというデメリットがある。

コミュニケーションツールによっては,相手の表情を見ることができるが,それでも対面状況(Face-to-face)のコミュニケーションより非言語的なチャネルを表出することが少なくなるだろう。

だから, CMCで必要とされるコミュニケーション・スキルは,対面状況で用いられるスキルとは異なると考えられる。
CMCには,オンラインでのコミュニケーションに特有なスキルを適切に用いることで,相手との会話を円滑にできるだろう。


メディアでのコミュニケーションでは非言語的な情報が乏しくなる

社会心理学の分野では,コミュニケーションにおける視覚的な手がかりが重要であることを強調している。

視覚的な手がかりとは,例えば,相手に注意を向けること,誰がいつ話すかということ,ジェスチャー,あいづち,表情などである。
これらの情報は,ビデオ電話のコミュニケーションツール(Zoomなど)を使えば,いつくかを伝達することが可能であるが,対面に比べると多くは伝達できない。

視覚的な手がかりを十分に伝達できないと,どのような問題が起こるのだろうか?

古い研究ではあるが,遠隔コミュニケーションの研究では,テレビ電話を通じて,相手の顔を見ながらコミュニケーションできる方が,相手の声しか聞こえない電話でのコミュニケーションよりも,相手を好意的に評価するという研究結果がある(William, 1975)。

このメカニズムについて,Short et al.(1976)は,「社会的存在感」という概念を用いて,「コミュニケーションでの態度は,主に視覚的な手がかりによって伝達され,聴覚的な手がかりは,集団間における課題と関連する情報のみを伝達する」ことを説明している。

つまり,電話などによるコミュニケーション,視覚的な手がかりを取り除かれるため,課題関連や問題解決についての情報を伝達するには最適であるということである。

このことから,要点だけを伝えるには,電話のコミュニケーションが適切であると考えられるが,相手との会話を楽しむためには,テレビ電話を用いて,視覚情報を与えた方がコミュニケーションが円滑になると考えられる。


わかりやすく伝えることを意識する

テレワークが進む中で,CMCが増えるだろう。
CMCでは,声や文字が主体となり,言語コミュニケーションが優位になる。
しかも,視覚情報が不足し,非言語情報が損失する。
そのような状況では,普段より相手の気持ちを読みづらくなることもある。

これらの点を考慮して,テレワーク中に,誰かとコミュニケーションを取る際には,「わかりやすく伝えること」を意識すると良いと思う。

わかりやすく伝えるために,いくつかポイントがある。

1. 相手は事前情報を持っていないという前提で話す。
話す相手によって,その人が持っている知識量は違う。
相手が何を知っていて,何を知らないのかを理解できない場合は,自分が話す内容は,相手が知らないかもしれないという前提で話すことを心がける。
この点は,特に,専門的な内容を伝える時に,重要である。


2. 相手のプロフィールを考慮する。
相手の年齢や性別,職業などの属性情報によって,相手の知識量は違う。
子どもと大人とでは知識量に差があることは言うまでもないが,大人であっても,例えば,職業によって,知っていることと知らないことは違う。

【相手のプロフィールの例】
・相手の年齢は?
・相手の性別は?
・相手の職業は?
・相手の国籍は?
・相手の性格は?

場合によっては,専門的な内容を伝えざるを得ない時もある。
その場合は,まず専門用語の意味を説明する。
それから,相手が専門用語を理解したことを確認する。
その上で,伝えたい内容を話す。


3. 伝えたい内容がきちんと伝わっているかを確認する。
自分では相手の立場に立ち,言葉を選んで話したつもりでも,相手が理解したかどうかは,相手の反応を見て判断する必要がある。
そのためには,以下のことを確認する。

・相手が関心を示していること
 →目を合わせてくれる,話の内容にあった表情をしてくれる
・説明を理解していること
 →あいづちをしている,話の内容に合った質問をしてくれる
・話に飽きていないこと
 →手足を頻繁に動かしている,時計を確認している)


4. 相手に質問しながら話す
話の合間に,自分が伝えた内容のポイントを質問して,相手の理解度を確認すると良い。

「〇〇のことわかった?」,「〇〇についてどう思う?」などと相手に質問してみる。

ただし,質問はほどほどに。質問攻めになると,話の流れが悪くなり,相手がうんざりしてしまう。

5. わかりにくい点は繰り返して伝える。
相手がわかりにくいと感じていることは,言い方を変えてみたり,違う角度から説明したりする。
具体例で説明することが良い。
そして,ゆっくり話そう。


テレワークにおけるコミュニケーションの課題と対策

株式会社パーソル総合研究所が実施した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」により,テレワークを実施している人が「非対面のやりとりは相手の気持ちがわかりにくく不安」と答えたのも,普段のコミュニケーションより非言語的な情報が少なくなり,視覚情報が不足したことによると考えられる。

これが,テレワークにおけるコミュニケーション課題だろう。

これを解決するには,テレビ会議などを用いて,非言語的な情報(特に,視覚情報)を十分に与えるコミュニケーションの環境を整えることが必要だと思う。
それに加えて,わかりやすく伝える必要もある。


参考文献

川上 善郎・川浦 康至・池田 謙一・古川 良治 (1993). 電子ネットワーキングの社会心理 誠信書房

Short, J., Williams, E., & Christie, B. (1976). The social psychology of telecommunications. NJ: John Wiley & Sons, Ltd.

宮田 加久子 (1993). 電子メディア社会 誠信書房

Williams, E. (1975). Coalition formation over telecommunications media. European Journal of Social Psychology.

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