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映画『大人は判ってくれない』 (ネタバレ感想文 )大人になって判ったこと。

私の鑑賞記録に、「15、6年ぶりの再鑑賞」と2003年にメモっているので、それから19年、トータル35年来のお付き合いになる映画。
若い頃は名作と呼ばれる映画は何でもガツガツ食ってたんです。
4,5回目の鑑賞になると思いますが、観るたびに新しい発見がある。
まあ、久しぶり過ぎて忘れてるだけかもしれないけど。
でもね、こっちの年齢で「視座」が変わるから、それで見えてくることもある(もちろん見えなくなる面もある)。

実を言うと今回、再鑑賞で評価が上がりました。
めちゃくちゃ映画的な高揚感があった。
先に観た『野性の少年』(1969年)との関連性とか、トリュフォーの自伝的な要素が強いとか、そういう「情報」ではなく、素直に映画として面白かった。
「映画らしい映画」だった。

いや、稚拙なのよ。下手なのよ。
この腕で「お話し」を描こうとするから『ピアニストを撃て』(60年)みたいな珍作になっちゃうのよ。
でも、自伝(的)だから、この稚拙さが逆に生々しさを帯びてくる。
ゴダールは頭でっかちだけど、トリュフォーは身を削った作家性だったんだなあと改めて気付きました。

セット撮影ではなく、カメラが「外」の空気感を捉えている、たぶん先駆的な映画だと思うんです。

(ネット上から拝借しました)

特に、街で教師に引率された生徒たちが徐々に列から抜け出すシーン。
ジャン・ヴィゴ『新学期・操行ゼロ』(33年)のパロディーらしい(残念ながら未見なので分かりません)。
でも、あの空気感というかライブ感に興奮した。何でもCGで描けちゃう今だから特に。

そして走るドワネルのワンカット長回しね。
この映画的な運動が、もう感動的で。

若い頃に観た時は、そのタイトルも含め「少年の反抗」が主軸だと思って(思い込んで)観ていました。
自分がこの年齢になって観ると、「大人が子供を追い込んでいる」話に見えたんです。
この子、本当は悪い子じゃないんですよ!
盗んだ牛乳を一気飲みするじゃないですか。罪悪感から「早く瓶を捨てたい」と思ってるんです。タイプライターだって返そうとするじゃないですか。ボヤ騒ぎだって放火目的じゃないんですってば。

つまりね、「大人に追い詰められた少年」が、パーンと弾けるように、その状況から「走って逃げる」。それが「映画的な運動」とリンクする。
解放とか、未来へとか、でも行き先は判らない不安感とか、いろんな感情があの「ワンカット長回し」の「疾走」に集約される。
だから感動したんだと思います。

トリュフォー27歳の頃の作品なんですが、瑞々しくも大人の映画。
逆に言えば、若かったから、こんな無茶な終わらせ方ができたのかもしれません。
老成したら、これは作れない。

監督:フランソワ・トリュフォー/1959年 仏

(2022.07.03 角川有楽シネマにて鑑賞 ★★★★★)

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