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映画『未来世紀ブラジル』 (ネタバレ感想文 )映画史に残るレトロ未来感

私はテリー・ギリアム好きなんですが、ウチのヨメからは
「最初に特大場外ホームランを見ちゃったからファンになったけど、実は打率が低いんじゃないか」疑惑をかけられています。
その特大場外ホームランがこの映画。午前十時の映画祭のおかげで約30年ぶりの再鑑賞。
まあ、「世界一コスパの悪い監督」だとは思いますよ。

独特のビジュアルイメージは、言わば「昔考えられていた未来」。名付けて「レトロ未来感」。
これ、アニメやゲームは多いと思うんです。宮崎駿なんかもこれに近い。
ところが実写でやる人はあまりいない気がします。しかもCGのない時代。
どんだけダクトが重要な世の中なんだよ。
そういや、リドリー・スコット『エイリアン』(1979年)も「この宇宙船は蒸気機関なのか?」ってほどシューシュー白煙吹いてましたけどね。
ちなみにダクト修理工役のデ・ニーロは配管工に弟子入りして役作りをしたそうですよ。今となっては「デ・ニーロならそれくらいやるよね」エピソードですが、当時は「そこまでしてこのチョイ役!?」という驚愕エピソードだったもんです。
話が横道に逸れましたが、ギリアムは「レトロ未来感」に「変な巨大セット好き」が加わって、本当にコスパが悪い。

改めて観たら、実に「イギリス映画」でした。

先日、『小さな恋のメロディ』(71年)でも書きましたが、イギリス映画は当たり前のように労働者階級が描かれるのです。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の影響下にある映画ですが、これは「市民」じゃない。労働者階級。
それに爆弾テロね。イギリスと言えばIRAの爆弾テロ。あっちで爆発、こっちで爆発。調べたら、最高記録は1972年の年間1300件!

よく「赤か青のリード線、どちらかを切れば爆破停止で一方はトラップ!」みたいな爆弾サスペンスがあるじゃないですか。
イギリス映画『ジャガーノート』(74年)が源流だと思うんですが、これやっぱり、爆弾に慣れてる(?)イギリス的着想じゃないかな?
日本で爆弾を上手に扱った映画はあまり思い付かない。『新幹線大爆破』(75年)くらいですよ。ただ、『新幹線大爆破』は傑作。

そのテロリストですが、この『未来世紀ブラジル』は「誰が誰にとってのテロリストなのか?」という話だと私は解釈しています。
言い換えれば「誰かにとっての正義は、誰かにとっての脅威」。
管理社会に挑むヒーローという側面で語られますが、逆から見たらテロリストですよ。

ラストシーンは揉めたそうですが、おそらくギリアムの頭の中にはアメリカ的「勧善懲悪」思考はなかったでしょう。
実際、死傷する人々を見て心を痛めるサム・ライリーの姿が描写されます。他者の犠牲の上に成り立つハッピーエンドなんてあり得ない。
ギリアムは空想家で皮肉屋ですが、そういう良心がある。
むしろ、良心があるからバッド・エンドを選択するのです。

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もう一つ別の側面から。

「情報」を扱った先駆的な映画だと思います。
でもまだ「情報=紙」でビジュアル表現可能だった時代でもあった。
今だったらデータでなくちゃいけないけど、「レトロ未来感」も手伝って「紙」で用が足りた。

たぶん、「情報」が注目され始めた時代だったのです。
日本でも、雑誌『ぴあ』が70年代に創刊し、映画・演劇の「情報」が商品となった。スポーツも、結果だけではなく過程や背景が読み物として「情報化」された。雑誌『Number』や『週刊プロレス』なんかも80年代創刊だと思います。余談ですが、「伝説の名勝負」とかが語り草になったのはこの「情報化」以降ではないかと私は睨んでいます。
それより何より、この映画の製作騒動の顛末が『バトル・オブ・ブラジル』という書籍として出版されている。映画制作の舞台裏が「情報」として商品化された草分けだと思います。

それくらい「情報」が注目され始めた時代だったわけです。
そしてこの映画で(ネタバレになりますが)デ・ニーロが紙まみれになって消失するシーンがあります。ただの幻想シーンにも思えますが、「紙=情報」であることを考えると「情報を剥いだら実態がなかった」という皮肉屋ギリアムの揶揄なのかもしれません。

(2021.10.17 TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞 ★★★★★)

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監督:テリー・ギリアム/1985年 英=米

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