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ケモノ井戸

ダイキさんは幼い頃から外で遊び回る少年だった。自然に溢れた、遊具もない公園でよく遊んだそうだ。その公園の隅に、小さな井戸がポツンとあった。子供が落ちると危険だからか、井戸は固く蓋がされており、中を見た者は一人も居なかった。

ある日の午後、一つ下の妹や友人達と公園で隠れんぼをする事にした。ダイキさんが鬼の役になり、隠れた妹達を探していると、何処からか動物らしき鳴き声が聞こえてきた。1匹、2匹でもない、犬猫とも違う。耳を澄ますと井戸の方から聞こえる。ダイキさんはゆっくりと井戸へ近づいた。すると蓋は外されており、地面に置かれているのが見えた。

鳴き声は井戸の中からだ。ダイキさんが覗き込もうとすると、妹の頭が突然飛び出してきた。顔は青白く、目つきはギラついていた。こちらを睨みつけ無言だ。変わらず、井戸から複数の鳴き声は聞こえる。妹の声ではない。「何かが潜んでいるのか..」尋常ではない雰囲気にダイキさんは妹に「井戸から出ろ!」と声をかけた。すると妹は井戸から飛び出た。地をはいずり、走り回り、錯乱している。まるで獣の様だ。ダイキさんが呼びかけても暴れ続けた。すると騒ぎを聞きつけた友人達が戻り、一緒に妹を取り押さえてくれた。その時、周囲から凄まじい獣臭がしたのを感じた。

それは井戸から漂っていた。落ち着いた妹を寝かせ、恐る恐る井戸を覗くと、中は枯れ、盛土がされていた。子供一人が入る程しかない広さだった。ただ盛土の下から凄まじい数の鳴き声が漏れていた。

ここに居てはいけない。恐怖したダイキさん達は急いで妹を抱え、公園から出た。公園が見えなくなるまで遠吠えの様な鳴き声は聞こえた。落ち着きを取り戻した妹に話を聞いた。井戸から鳴き声がして近づくと「蓋を開けろ」と言われたそうだ。何故か蓋は簡単に開き、そこからの記憶はないと話した。大人達に打ち明けたが、信じてもらえなかった。

しばらくしてその井戸は地元の猟師達が獣を処理した残骸を捨てる、ゴミ捨て場だった事を知った。だいぶ昔の話だそうだ。ダイキさんはその時、捨てられた獣の残骸が妹に取り憑いたのだと感じた。10数年経った今も時折、妹から凄まじい獣臭がする。そしてジッと彼を睨みつけるそうだ。それはまだ彼女に取り憑いているのかもしれない。現在も井戸は固く蓋がされている。今そこは誰が名付けたのか、「ケモノ井戸」と呼ばれているそうだ。

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