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エイハブの六分儀-2023.12月号 西 香織

【今月の星空案内】

何といっても、木星の存在感が際立っていますね。しばらくは、夜の絶対王者の地位を譲る気配はありません。木星は、明け方の東に昇る明けの明星である金星に次いで二番目に明るい星です。真夜中の明星とか夜半の明星と呼ばれます。惑星ですから、輝くエリアを変えていってこの時期、木星はおひつじ座のエリアにお邪魔していますので、自分の星座だという方はチャンスです。おひつじ座は淡い星ばかりで、普段は見つけにくい星座ですから。古代ギリシャのテッサリアという国の、フリクスス、という男の子と、ヘレネという女の子の双子の兄妹の命を救った黄金の毛の空飛ぶ羊の姿です。

木星は、12年かけて黄道12星座をひと巡りします。西洋占星術でも、東洋占星術でも、木星は幸運の星と考えられていたそうです。木星の周期がもととなり中国で十二の干支が生まれ、来年は辰年ですね。実はウクライナにもこの概念が中国から輸入されていたそうで、2024年は「緑木の竜の年」なのだそうです。

今年4回シリーズで開催しているウクライナ特別投影の準備中に、ハルキウプラネタリウムのオレナ解説員から、この話を聞いた時、8千㎞離れた西洋と東洋に同じ伝統があるとわかり心が躍ると同時に、いにしえの砂漠をゆく商人に想いを馳せシルクロードの風を感じました。ちなみに、オレナ解説員は猿年生まれなんだそうです。

12月22日(金)冬至に、木星の近くを月齢9半月過ぎの月が接近します。コールドムーンと呼ばれる今年最後の満月は、12月27日(水)ふたご座で迎えます。

さて、木星の後を追いかけるようにして、東の方からは次第に冬の王者オリオン座が高く昇ってきて、真夜中には南の空で「俺さまが主役だ」とばかりに目立っています。赤いベテルギウスと青白いリゲルにはさまれた、ちょうど真ん中に少し傾いて横一直線に並ぶ3つの明るい星は三つ星、オリオンベルトを形成します。三つ星の下の縦にならぶ小三つ星には、星の誕生の場であるM42オリオン大星雲があります。肉眼でもぼんやり滲んだ光のシミのように見えます。星のゆりかごと呼ばれる場所で、たくさんの恒星たちが誕生している現場です。

三つ星を高い方へ上っていくと、おうし座の顔を表すヒアデス星団と呼ばれるV字型の星団にある真っ赤な星アルデバランへたどり着きます。さらにのぼった先には、プレアデス星団。「七つの姉妹」とも呼ばれる美しい散開星団です。

三つ星を下へおろした先で輝く最も明るい恒星が、おおいぬ座シリウス。シリウスよりも高い位置で輝く一等星は、こいぬ座プロキオンです。ベテルギウスとシリウス、そしてプロキオンでできる三角が冬の大三角です。頭の真上近くを星の集団のプレアデス星団であるすばるが通過して、冬の大三角がいよいよ正面に。

冬の大三角の中ほどには、いっかくじゅう座という珍しい星座があります。ユニコーンの姿です。明るい星がないので想像力がたよりですが、一角獣の夢を見ると幸せになれるのだそうです。いっかくじゅう座にはクリスマスにぴったりなNGC2264とナンバリングされている天体があります。コーン星雲とよばれる散光星雲と一緒になった散開星団で、写真に写すと、イルミネーションに彩られたクリスマスツリーのような姿に見えるのです。別名クリスマスツリー星団。場所は、オリオン座とこいぬ座とふたご座との境界線付近。いっかくじゅうの角の先端のあたり、といったところでしょうか。

ところで、クリスマスといえば、これまでウクライナではグレゴリオ暦に従った12月25日のクリスマスと、ユリウス暦の1月のクリスマス、という具合に年に2回もクリスマスを祝ってきたのだそうです。日本だと、7月7日の七夕と、旧暦に従った8月の伝統的七夕のようなイメージでしょうかね。戦争が始まって以来、敵対する国の伝統文化と距離を置くために様々な変革をすすめる中、クリスマスも12月25日のみ、と決められたとのことです。

また、昨年、オレナ解説員の故郷のハルキウでは、大きなクリスマスツリーが地下鉄に飾られました。外は絶え間ない空襲警報と爆発が続きまだまだ危険です。子どもたちが安心してクリスマスを楽しめるように、という想いからなのだそうです。

今年は、中東の国でも多くの市民の血と涙が流され、目を覆いたくなるようなニュースが続きました。この惑星の子どもたちに、平和というプレゼントを贈るには、いったいどうすればいいのでしょう…一人のサンタの力は小さくて願いは途方もなく感じられるばかり。ですが、それでもあきらめずに、眩い星々の輝きに問い続けていかなければ、と思います。

西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。


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