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スターバックの本棚・「三体」

『三体』 劉慈欣
邦訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ
早川書房

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昨年、日本で大きな話題となった中国発のSF小説である。アメリカでもSFで最高の賞であるヒューゴー賞をアジア人としてはじめて受賞するなど、高く評価された。その評価に違わず、非常に面白かった。人類と地球外文明とのファースト・コンタクトを描く。この手のSFは必ず宇宙人や異世界をいかに描くかという問題に直面する。どう描いても想像力の限界が露呈しチープになってしまうからである。

過去の名作SFの多くでは、直接描かないことでこの問題を回避してきた。アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』では直方体のモノリスによって、カール・セーガン『コンタクト』では円周率によって、人類よりはるかに進んだ地球外生命体を間接的に表現した。本作では地球外文明をVRゲームを通して描くという斬新なアイデアでこの問題を解決している。扱っているテーマは壮大で、内容もイマジネーションに溢れ、少しも飽きる暇がない。科学考証の粗さと戯画的なキャラクター設定がいささか気になったが、エンターテイメントとしては素晴らしい作品である。本作品は三部作の第1巻に当たる。つい先月、第2巻『黒暗森林』の和訳が出版されたようだ。はやく続きが読みたくてウズウズしている。

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小野雅裕
技術者・作家。NASAジェット推進研究所で火星ローバーの自律化などの研究開発を行う。作家としても活動。宇宙探査の過去・現在・未来を壮大なスケールで描いた『宇宙に命はあるのか』は5万部のベストセラーに。2014年には自身の留学体験を綴った『宇宙を目指して海を渡る』を出版。
ロサンゼルス在住。阪神ファン。ミーちゃんのパパ。好物はたくあんだったが、塩分を控えるために現在節制中。


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