見出し画像

待つ

5年前にこんなツイートをした。

このどれが一番最初に実現したか。もちろん、皆さんはご存知だろう。

実に38年。待った。途方もなく、待った。次の図を見てほしい。

高校生だったYoshikiとToshiがXを結成した1982年に、僕は生まれた。1985年にバース、掛布、岡田の超強力クリーンアップを擁して日本一に輝いた時、僕は3歳になったばかりだった。残念ながら全く記憶にない。

だが、物心が付いたら僕はすでに阪神ファンだった。君が代よりも先に六甲おろしを覚えた。大阪人だった母方の祖父母の洗脳教育の結果だ。はじめて見に行った試合は横浜スタジアムでの大洋ホエールズ戦で、岡田がまだ現役だったのを覚えている。

しかし、当時は長い、長い阪神の暗黒期の始まりだった。東京の小学校にはもちろん阪神ファンなんていない。当時は西武の全盛期。セリーグは巨人とヤクルト。でも、阪神ファンとは宗教である。どんなにいじめられても、隠れキリシタンが信仰を守り抜くように僕は阪神愛を貫いた。

それでも一向に勝たない。新庄が槇原から敬遠球をサヨナラしてお立ち台で力強く放った言葉「明日も勝つ!」

でも翌日は負けた。

大学に入り、野村監督が育てたチームが星野監督の元で開花して、18年ぶりにリーグ優勝したのが2003年。日本シリーズは第七戦までもつれたが惜しくも敗退。

そして代わった岡田監督の下で再び2005年にリーグ優勝に輝くが、ちょうど僕が留学のために渡米した直後だった。そして日本シリーズはあっさり4連敗。2014年も2位からクライマックスシリーズを勝ち上がったが、日本シリーズはいいところがなかった。

そして、今年。ついに成し遂げた。毎朝4時に起き、VPNからTVerに繋いで観戦。そして最後の第7戦、最後のフライをノイジーがグラブに収める瞬間を家族の寝静まるリビングルームで見届けた。

38年。僕は待った。信じて待ち続けた。暗黒期を乗り越え、日本シリーズに3度破れ、やっとたどり着いた栄冠。

待つことでしか見れないものが、この世の中にはあるのだ。

ちなみに、こんなツイートがあった。

もしこれが正しければ、あと38年後に阪神日本一とハレー彗星の回帰を同時に見れることになる。僕は79歳。待とう。待つことでしか見れないものが、この世にはある。


さて、阪神日本一は達成した。では、「X Japanのニューアルバム」と「人類火星着陸」はどちらが先だろうか。

先日、人類は火星に一歩近づいた。そう、SpaceX社のStarshipの2度目の試験飛行である。

史上最大、しかも完全再使用ロケットのStarship。その技術的難易度は途方もなく高い。今年の4月に行われた最初の試験飛行は、第二段分離前にロケット全体がくるくると回転し始め、最後は爆発して失敗した。

そして11月18日に行われた2回目の試験飛行。ロサンゼルスは朝5時で、日本シリーズの時のように家族の寝静まるリビングで、ヘッドホンで音声を聞きながら手に汗握って見ていた。

第一段は無事に燃焼終了。第二段のエンジンを分離前に点火するホットステージングにも成功し、もう少しで軌道投入というところで第二段が失われた。打ち上げは失敗だが、試験としては大成功だったと思う。1回目よりも大きく前進したし、貴重なデータも得られたからだ。

Starshipは、人類を月に再び着陸させるNASAのArtemis計画の月着陸船として使われる予定であるが、先の道のりは長い。

まず、軌道上のStarshipのタンカーに10回〜20回に渡って別のStarshipで給油をする必要がある。そうして初めて月に行くStarshipを打ち上げ、燃料補給して月に向かう。まず、第一段と第二段の再使用を可能にしなくては話にならない。さらに軌道上の給油も簡単ではない。月着陸は今のところ2025年に予定されているが、さすがにあと2年での達成は厳しいだろう。

そもそもStarshipはイーロン・マスクが人類の火星移住のために作ったロケットだ。2020年の時点で、2022年には無人の、2024年には有人の火星ミッションをやると言っていたが、間違いなくこれも無理だろう。

火星有人飛行は、どんなに早くても10年はかかると僕は思っている。

待とう。技術は着実に前進している。待つことでしか見れないものが、この世にはあるのだ。


さて、残るはX Japanのアルバム。11月に入って、ファンにとって衝撃的なニュースが届いた。

ベーシストのHEATHさんが癌で亡くなったのだ。55歳という若さだった。

そもそもYoshikiのタイムラインはイーロン・マスク級に当てにならない。

アルバムのレコーディングはとっくに終わっていて、2014年の時点でYoshikiは「99%完成した」と言っていた。

ところがそうこうしているうちにVocalのToshiが仲間割れ。2018年以降、バンドの活動はない。

HEATHさんはX Japanとして再びステージに立つことを強く望んでいたという。きっと、待っていたのだろう。切望していたのだろう。阪神ファンのように。

待っても、生きているうちに見れないものもあるのだ。

宇宙もそうだ。いつか人類は地球外生命と遭遇するだろうし、月や火星に街を築き、太陽系の果てや系外惑星も探査するだろう。でも、僕が生きている間に見れるものはそのほんの一部でしかない。

人の一生は短い。宇宙や阪神やX Japanのタイムスケールからすると一瞬の瞬きのように短い。

それでも待とう。信じて待とう。忍耐強さが阪神ファンの取り柄である。

いつかToshiさんがXに戻ってきてアルバムも出る。

いつか人類はまた月の土を踏み、火星にも到達する。

38年待てばハレー彗星も帰ってくる。

そしてきっといつか、また阪神は日本一に輝くだろう。(でも来年だったらいいな。)

小野雅裕
技術者・作家。NASAジェット推進研究所で火星ローバーの自律化などの研究開発を行う。作家としても活動。宇宙探査の過去・現在・未来を壮大なスケールで描いた『宇宙に命はあるのか』は5万部のベストセラーに。2014年には自身の留学体験を綴った『宇宙を目指して海を渡る』を出版。
ロサンゼルス在住。阪神ファン。みーちゃんとゆーちゃんのパパ。好物はたくあんだったが、塩分を控えるために現在節制中。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?