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イタコについて考える

誰でも一度ぐらいは「イタコ」という言葉を聞いたことがあるかと思います。
自分を依り代として死者の魂をおろして、遺族と会話を行うもので、口寄せと呼ばれます。
イタコと言えば青森県の恐山が有名ですが、普段は恐山に行ってもイタコはいません。
大祭の時だけやってきて、小屋掛けをするのです。

すごい行列ができるそうです

今ではイタコの数も数えるほどになってしまい、いずれ途絶えてしまうのかもしれません。
そもそもイタコは、先天的に目が見えない、または後天的に目が見えなくなった女性が、厳しい修行を経てなれるものです。
そして呼び名は違いますが、このイタコと似たような職業の人は東北に多く見られます。

恐らく、昔は目が不自由な女性は生きていく事が難しく、家では厄介者扱いされてしまうため、そのセーフティネットとしての役割を果たしていたのがイタコなのだと思います。
暖かい土地なら物乞いをして生きていく事もできたでしょうが、東北は無理です。冬が越せません。そういうことから、東北に集中しているのではないかと思います。

さてこのイタコの口寄せですが、皆さんは信じますか?

こう聞かれたら、ほとんどの人は信じないと答えるかと思います。
でもそれは違います。
口寄せは信じるとか信じないとかいうものとは別次元のものなのです。

かくいう僕も若い頃は「マリリンモンローの霊を呼んだら津軽弁で話し出したんだってよ」とか「まだ生きているお父さんを呼び出してもらったら、呼び出せちゃったんだって」などと、他人から聞いた噂話を面白おかしく語っていたものでした。

僕自身イタコに会った事はありませんが、歳を取ってきてイタコの存在意義がわかるようになってきました。

もしあなたの家族や親しい人が、不慮の事故や病気で亡くなってしまい、深い悲しみに暮れたとしましょう。
夢でもいいから会いたい、幽霊になってでもいいから会いに来て欲しい。そう思いませんか?
もしうちの猫が死んで、誰もいない廊下から鈴の音が聞こえたら、会いに来てくれたんだと思って、僕は何も見えない空間に向かって猫の名前を呼ぶと思います。

このように、親しい人と別れて心に深い悲しみや傷を負った人のカウンセラー的な役割を果たすのがイタコなのだと思います。
そこでは、本当に亡くなった人の霊が来てるの?とか、自分たちにしかわからない質問をしてイタコが何と答えるか聞いてやろうなどといった気持ちはいらないのです。

例えば、あなたのお父さんと喧嘩をしたままお父さんが急に亡くなってしまったとしましょう。そしてあなたは生前お父さんに素直に謝る事ができなかったという事を気に病んでいたとしましょう。
そこでイタコにお父さんを呼んでもらいます。
その時お父さんはこんな事を言うはずです。

「〇〇よく来てくれたな。お父さんはうれしいよ。生前は色々と思うところもあったかもしれないが、こうしてお前が会いに来てくれただけで、もう何もいう事は無いよ。こっちでは楽しくやっているよ、お前も体には気を付けて頑張るんだぞ。お前の選んだ道に間違いはないから、自分を信じてやりたいことをやるんだよ。お父さんはいつでもお前の事を見守っているからな・・・・」

この時、お父さんの好きだったお酒の銘柄は何だっけ?なんて質問しますか?そういう質問をしたくなるような人は、ここには来ないのです。
心の救いを求めている人だけがやってくるのです。

僕の知っている人で、唯一口寄せをしてもらった事がある人に話を聞いたことがあります。
数年前にお母さんを亡くしていて、興味半分で恐山の大祭に行き、口寄せをしてもらったそうです。
どうせ適当な事を言うだけで、お母さんの霊が来るわけなんか無いのはわかっているけどと思いながら臨んだそうです。

ところが、イタコの口から「〇〇元気だったか?お前の事はいつでもこっちから見ていたよ。お前が会いに来てくれただけで、もう何もいう事は無いよ」と言われただけで涙がとまらなくなり、そこにいるのは母親以外の何物でもなくなり、ただただうんうんとうなずくしかなかったそうです。

もちろん、本当の母親の霊が来たという意味ではなく、その人は生前母親とは確執があって、それが心残りになっていたのが、母親と和解できたような気持になり心の傷が癒えたような感じになったそうです。
まさにカウンセリングというか心療内科というか。

こうして、生きるためにイタコになる人たちと心に傷を負った人たちの利害関係が一致して、今まで連綿と続いてきたのだと思います。

最近家内が、死んだ僕の父にもう一度会いたいなと言い出すことがあり、訳を聞くと生前もう少し色々聞いておきたかった事があったけど、忙しさにかまけてあまり話ができなかったからとの事でした。
こういう時にイタコだよと冗談で言ったのですが、イタコの口から「私は元気だよ。みんなと仲良くやってるか」なんて言われたらきっと泣くわと言っていました。

恐山の大祭は例年 7月20日〜24日 と 10月第二週の三連休です。
2021年はコロナの影響で中止になってしまいましたが、今年はどうでしょうか。

亡くなった人に会いたい人は、遠いですがイタコがいなくなる前に一度行ってみてはいかがでしょうか。

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