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失ったお金は稼ぎ直せても、失った時間は取り戻せない。

夫とお休みが被ったので近くの公園にピクニックに行くことにした。

ずっと気になっていたお弁当屋さんでお惣菜のコロッケともつ煮込みを買って、自宅から手作りのおかかふりかけを詰めて握ったおにぎりを持って、るんるんで公園に向かった。

公園には小学生が遠足で訪れていたようで、多くの子供たちがレジャーシートを敷いてお弁当を食べている。

「小学生たちとお昼ご飯かぶっちゃったね。」

そんなことを言いながら、小学生に囲まれつつ私たちも持参のお惣菜たちを広げた。



変わり種のコロッケや、大根おろしとなすが入った風変わりなもつ煮を楽しみながら他愛もない話をして休日のお昼を楽しんだのだった。

空はどんよりとした厚い雲に覆われていて、少し肌寒かったけれども、非日常の食事はとてもよい気分転換になった。

海苔を切らしていたので裸んぼうの握り飯

ふと水辺のそばを見てみると、見たことのない水鳥が餌を探しに来ていた。

「何の鳥だろう?」

そう言って一人で近くまで見に行くことにした。

ジーッと見つめながら写真を撮っていると、見ず知らずのおじいさんに話しかけられた。

最初は鳥のことについて話しかけられただけだったのだが、そのうちどんどん自分語りを始め出した。

あーあ、これは長くなる。早く引き上げないと。

そんな事を思いながらも、

話を聞いてくれる人が身近に居ないのかもしれない。

もしかしたらタメになる話を聞けるかもしれない。

少し聞いてあげてもいいかな。なんて思っている自分もいた。


それにしても、とにかく話が長かった。

夫を待たせていたので話が切れそうなタイミングで

「じゃあ、そろそろ……」

と言うと、今度は違う話を振ってくる。

私はこういうシチュエーションが本当にダメだ。逃げられた試しがない。

話しかけやすい顔をしているからか何なのか分からないが、私は昔からよくお年寄りに話しかけられる。

買い出しに行った先でも、旅先でも、交通機関の中でも、病院でも。

本当に数え切れないほど話しかけられてきた。

もちろん切上げ時を見つけて話を終わらせる人もいるし、そうでない人もいる。

そうでない人でも、こちらがそろそろ逃げたいオーラを出すと話し終えてくれる人が多いのだが、今回はそうじゃないタイプの人だった。

こういう人に対して強く出られない私は、今までも散々自分の時間を犠牲にしてきた。

一人でゆっくりしたくて行った公園で話しかけられてずっと付きまとわれたり。

ゆっくりしたかった食事中に横のテーブルの人に話しかけられて、ずっと世間話を続ける羽目になったり。

たった一言「一人にしてください。」そう伝えられれば良いのだが、それがなかなか出来ないのだ。


私の祖母が話好きでところ構わず色んな人に話しかけているのを小さい頃から見続けてきた。

悪気なく自分の身の上話しを人にすることが日常的で、そういうのを近くで見ていたからか、話の腰を折るのがなんだか不憫に感じてしまうのだ。


…いったいどれくらい経っただろう。そろそろ帰らなくては。

この間に何度抜け出そうとしたことだろう。なぜこの人は察してくれないのだ。夫が助け舟を出してくれないかな。

そう思っていたら、カンカンに怒った夫が「帰る。」と言い放ちに来たのだった。

慌てるおじいさんに目もくれず、必死に夫を追いかけた。

こんなはずじゃなかった。

私だって抜け出したかったのにどうすればいいか分からなかった。大切な一緒の休みの日をどうしてこんな想いをして終わらせねばならないのだ。夫に謝らなきゃ。

色んな想いを抱えながら、追いつきもしない夫の背中を必死に追いかけて、いい歳こいて泣きながら家に帰った。


家に帰ってからこっぴどく叱られた。

「何分放置されたと思っているのか。時間は有限。人の時間を奪ってることを理解しなさい。どうでもいい人にうちの家庭の時間を奪われているんだよ。お金は失ったら稼げばいいけど、時間は戻ってこないんだからね。」


普段怒らない人が怒ると本当に怖い。

ただ、言っていることは全て正論。私が全部悪い。

思考が停止していて気付かなかったが、どうやら私は50分近く立ち話に付き合わされていたらしい。

この時間があれば読みたい本の続きが読めただろうし、noteも書くことができた。夫と一緒に大好きなゲームをすることもできた。
なんなら、見ず知らずの人ではなく祖母の話を聞いてあげたらよかった。

「大切じゃないものに対して自分を犠牲にするのはやめなさい。」

本当にその通りである。

おじいさんを傷付けたら可哀想だな。と思いすぎたために強く行動できず、結果的にこの世で一番大切な人を傷つけてしまった。私はとんだ大馬鹿野郎だ。

でもきっと、こうして夫に叱られなければ多分私はまた同じ過ちを繰り返してしまったことだろう。

夫に叱られたから、時間と自分の意志を大切にしようと肝に銘じることができた。

だからと言って、見ず知らずとの人の出会いを全て蔑ろにするのはなんだかもの悲しい気もするので、程々のところで切り上げられるように努力せねば。


夫よ、叱ってくれてありがとう。本当にごめんなさい。

どんより空のピクニックを経て人生で大切な事を学んだ一日だった。

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