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No.130 2016年6月 共著『やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート』の出版

 2023年後半から政治に大きな問題が出てきました。政権を担っている自民党のいくつかの派閥による裏金問題です。2024年になり派閥を解消する動きが出てきました。派閥を解消すれば全て問題が解決するのでしょうか。裏金の問題は明らかになるのでしょうか。派閥解散は政治改革ではなく自民党の権力闘争ではないかという指摘もあります。政治家の倫理が求められます。2024年1月26日に開かれた通常国会でもこの問題が議論されています。議員を選んできた私たち主権者の行動も問われることかもしれません。『月刊ニュースがわかる』の2024年2月号では自民党の裏金問題を掲載しています。

 2016年7月の参議院議員選挙から、日本では18歳選挙権が国政レベルで実施されたのです。それまで選挙権を行使できる年齢は20歳でした。世界的に見て最も遅いレベルでの18歳選挙権でした。アルゼンチンやオーストリアではすでに16歳選挙権が施行されています。
 私は日本史上初めて実施される18歳選挙権に向けて、小学生から高校生まで取り組める主権者教育の出版ができないか模索し、出版社と新聞社の協力を得て『やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート』(東洋館出版社、2016年6月)を出版できました。執筆者は田中治彦氏(上智大学教授)、藤井剛氏(明治大学特任教授)、城島徹氏(毎日新聞編集委員)、町田貴弘氏(広尾学園中学校・高等学校教諭)、岸尾祐二(聖心女子学院初等科教諭)で、小島明日奈氏(毎日新聞社)、五十嵐英美氏(毎日新聞社)に協力をしていただきました(所属は出版時)。

 私たちの主権者教育の理念は、18歳になる高校3年生を対象にするのではなく、小学生から高校生または大学生までを対象にすることです。そして、選挙の期間だけ投票のことを学ぶのではなく、日常時事問題や政治、選挙に関心をもち学ぶ姿勢を身につけさせたいということです。さらに、学校に限定することなく家庭や地域で学ぶことも試みることにありました。
 2016年7月は初めての国政の18歳選挙権ですから、新聞やテレビなど多くのメディアが報道しました。予想できたことですが、その報道の多くは高校3年生がどのように選挙権を行使することや模擬選挙のようすが中心でした。このようなことでは一時的なブームが起きることはあっても18歳選挙権がしっかりと根付くことはできません。実際に現在18歳、19歳の投票率は低迷しています。そして、18歳選挙権の話題も各種選挙が実施される時でもほとんど出てきません。普段の授業において主権者教育が主張されることも一部を除いてほとんど聞こえなくなってしまったのではないでしょうか。
 2022年度からは18歳成人が施行されました。18歳になれば成人です。これも日本の歴史上初めてのことです。大人としての意識や行動が求められると共に個人の権利を主張していくことができます。若い世代の政治意識や投票率の低下を止めるためにも、18歳選挙権を再考していきたい意向です。18歳成人と18歳選挙権をセットとした主権者教育の在り方や具体的なプランを提案できればと思います。
 日本国憲法の前文の最初に「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」とあります。主権とはいくつかの意味がありますが、ここでは、国家の政治を最終的に決める権利とし、主権者教育とは主権者である国民が、世の中の出来事や政治について主体的に考え行動し、積極的に選挙へ関わる姿勢を身に付ける教育と捉ええることができます。特に10代の投票率の低下が懸念されます。2017年の第48回衆議院議員総選挙の投票率が40%だったものが、2019年の第25回参議院議員通常選挙では32%に低下してしまいました。2017年は前年に施行された18歳選挙権の影響がありましたが、2年後にはもうブームは過ぎ去ってしまったのでしょうか。


 文部科学省も2021年3月に「今後の主権者教育推進に向けて(最終報告)を出しました。
今後の主権者教育の推進に向けて(最終報告)
https://www.mext.go.jp/content/20210331-mxt_kyoiku02-000013640_1.pdf
 この報告では、「小学校・中学校での取組の充実」「家庭における取組の充実」「地域における取組の充実」「主権者教育の充実に向けたメディアリテラシーの育成」などは「小学生から高校生または大学生までを対象にすることです。そして、選挙の期間だけ投票のことを学ぶのではなく、日常時事問題や政治、選挙に関心をもち学ぶ姿勢を身につけさせたいということです。さらに、学校に限定することなく家庭や地域で学ぶことも試みることにありました。」という『やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート』の出版時の理念と同じものが含まれています。さらに、17頁の「家庭、地域における取組の充実」では「 子供たちの主権者としての意識を涵養するためには、人格形成の基礎が培われる幼少期からの取組が大切である。」と記されています。幼少期の定義はそれほど明確ではありませんが、幼稚園、保育園、こども園などに就園する時期から小学校低学年ごろでしょうか。私は現在幼小一貫教育において非認知能力(意欲、集中力、好奇心、忍耐力、コミュニケーション力などの能力の育成)が五感力を通してどのように教育できるかを実践していますが、今後は主権者教育についても模索していきたい意向です。
  私の主権者教育の起点の授業は1986年6年生での「衆参ダブル選挙を追え」です。エッセーNo.31「1986年~『衆参ダブル選挙を追え』の学習から主権者教育へ」を参照して下さい。
 その中で私は次のように述べています。
「国政選挙があるときに選挙の学習を取り入れた最初は、1986年の中曽根内閣での衆参ダブル選挙でした。その時の6年生の学習テーマは「衆参ダブル選挙を追え」でした。衆参同日選挙(ダブル選挙)は1980年に大平内閣でも実施され2回目のことでした。それ以来国政選挙の時には、新聞で情報を得る、街はどのように変わったのか、投票所に行ってみよう、選挙結果はどうであったかというような学習に取り組んできました。メディアから情報を得ること、自分で体験することの2つの視点をポイントにしてきました。
 もちろん、教師は政治的に中立の立場をとっての指導が前提になります。特定の政党や人物を支持することはしてはいけません。子どもたちは自由な発想で選挙や政治のことを追究していくのです。」
 
​ そして、18歳選挙権が決まるだろうという直前に実践したのが、2014年12月14日(日)に投開票された第47回衆議院議員選挙の過程を学んだ「18歳選挙権へ始めの1歩―衆議院選挙で政治を学ぶ―」でした。
 解散総選挙でしたので、授業の準備も十分できませんでした。今回は5時間の学習過程でしたが、すでに導入されていたタブレットパソコンも活用しました。
1時間目「国会の仕事はなんだろう」
2時間目「どうやって代表者を選ぶのだろう」
3時間目「法律はどのようにできるのだろう」
4時間目「投票はどのようにするのだろうか」
5時間目「選挙結果はどうなったのだろうか」
 
 1986年から2014年まで選挙があり該当する学年を教えているというチャンスがあれば主権者教育を進めてきました。このような授業の成果を結実したのが『やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート』でした。その後もタブレットパソコンを活用して2020年3月まで主権者教育に取り組んできました。
 

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