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棒立つ男

F君がスーパーの夜警のバイトをしていた時のこと。

F君はその夜、
懐中電灯を持ってだだっ広い駐車場をぶらぶら歩いていた。
たまにやんちゃな少年達が自動販売機の下でたむろしているのを注意するくらいで、
ほとんど問題らしい問題は起こらなかった。


いつもの慣れたコースを歩き、戻ろうとした時。
懐中電灯の灯りの中に、唐突に人影が現れた。
びっくりしてF君は電灯を取り落としそうになった。

子供くらいの身長だった。
フルフェイスの黒いヘルメットに黒い革つなぎを着ている。
そして黒い革の手袋。ブーツ。全身真っ黒だった。
異様な風体だったが、相手が小柄なのでF君は恐れなかった。

「もう閉店しているんで、出て行ってくれませんか?」

そう声をかけると、その黒ずくめの男はF君の横をすり抜け、
ゆっくり店の方に歩きはじめた。
F君がいらつき、

「ちょっと!だめだよ!」

と声に怒気をはらませて男の肩を掴んだ。

ぐにゃり、と肩がへこんだ。ように見えた。
次の瞬間、男の体が膝から崩れ落ちた。ように見えた。

違った。
F君の足下には男の服とヘルメットしかなかった。
中身だけが消えていた。
男の体を覆っていたものは、
冗談のように人間の形を保ったまま主を失っていた。

F君は、ただただ呆気にとられていた。



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