まもるンち

おはなしを書くこと、人から聞くこと、読むことが好きです。 ジャンルはSF、伝奇、ホラー…

まもるンち

おはなしを書くこと、人から聞くこと、読むことが好きです。 ジャンルはSF、伝奇、ホラー、青春、コメディなど、わりと何でも。 ふだんは、広告の文章を考えたりするお仕事をしています。 無断転載はお断わりしています。

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恐怖の手触りをさぐる ~このコンテンツの主旨について~

怖い話が好きだ。 人に聞かせるのも、人から聞くのも好き。 ホラー小説もホラーマンガも読む。ホラー映画も観る。 では怖がるのが好きかというと、別にそうでもない。 僕はものすごく怖がりだ。 だからこそ、恐怖という感情の正体を暴いてしまいたいのかもしれない。 恐怖の正体を知りたい。 だから少しでも多くの恐怖に触れるため、色々な人から話を聞いた。 その人自身が経験した怖い出来事について。 その人の友人が経験した不思議な出来事について。 ここにはそういったお話を、できるだけ脚色しな

    • ひょうすべ その1

      前回、烏にまつわる恐怖体験を語ってくれたGさん。 彼女は九州の出身だ。 その辺りには、なんというかそういう話が多い。 Gさんの家から車で二十分くらいのところに親戚の家がある。 そこは民宿も兼ねていて、 二階の一番いい部屋からは裏手にある大きな淵が一望できる。 親戚が集まるとその部屋を使って宴会になる。 その夜も部屋では大宴会がとり行われていた。 大人達は呑んでいればいいが、子供は暇だ。 子供同士で部屋の隅に集まって話をしたり、 テレビを見たりして時間をつぶす。 まだ十歳だ

      • 夜行男

        N君が仕事からの帰り道、自転車に乗っていた。 緩やかな下り坂だ。 こがなくてもかなりスピードがでていた。 不意に、ぐいっという感じで大きな影が背後に現れた。 後ろから自転車が近づいていた気配は感じなかったので、 その唐突さにN君はびっくりした。 と思う間もなく、気配は一瞬でN君を抜き去った。 抜いたのは自転車でもバイクでもなかった。 丸坊主のおじさんだった。 おじさんは古びたグレーの背広を着ている。 その背広をはためかせて、時速四十キロ以上で走っていた。 小さくなって

        • 烏(からす)

          げあ、げあ、という烏の鳴き声を聞くと、 Gさんは思い出す。 「烏の鳴き方には気をつけろ、っていうのがおばあちゃんの口癖でした」 都会でも、夜の烏の声は恐ろしい。 ああいう鳴き方をする時は、 烏同士で何か連絡を取り合っているらしい。 「そういう話は最近聞いたんですけど、昔からおばあちゃんに怖い話を聞いてたから。 いやな鳴き方をする烏がいると、道を変えたりしてました」 Gさんは怪異に魅了されているわけではないが、 わりと不思議なものを昔から見たり、 体験したりということが

        • 固定された記事

        恐怖の手触りをさぐる ~このコンテンツの主旨について~

          ススキの中から

          A君はフリーターだ。 旅行が大好きで、 少し時間ができると友達や彼女とあちこちに出かける。 けっこういい歳なのだが、 「長期の旅行にも出られなくなる」 という理由で正社員にはならない。 半年働いてお金を貯めては、 また半年沖縄に住み……という暮らしをしている。 そんなA君、連休を利用し、 友達と二人で山陰地方にドライブ旅行にでかけた。 季節は秋。 街中を離れ、山間にあるだだっ広い平野は一面ススキが生い茂っていた。 その大人の身長くらいあるススキがあんまり見事だったの

          ススキの中から

          最後の一葉 その3

          今もあの時の光景が目に焼きついて離れない、とRさんは言う。 「彼の日記は、見覚えのある言葉で埋め尽くされていました」 『○月○日。ボクシングにラッキーパンチはない』 『○月○日。明日がある、と思うだけでどうしてこんなに嬉しくなるんだろう』 『○月○日。今日もがんばろう。今よりもう少し自分を愛していたい。信じていたいんだ』 彼の日記に書かれていた言葉は、 Rさんパソコンに届いたメールとまったく同じものだった。 書かれた日付にも覚えがある。 節目節目の日をRさんが覚えて

          最後の一葉 その3

          最後の一葉 その2

          『○月○日。今日もがんばろう。今よりもう少し自分を愛していたい。信じていたいんだ』 そんなメールが届いたある夜、Rさんは心に決めた。 「大学に合格したら絶対に、この謎のメールをくれている人に返信しようって。 今までありがとうございましたって」 そして二月某日。志望校の合格発表の前日の夜。当然のようにメールは届いた。 『○月○日。人は泣きながら生まれ、周りの人達は笑っていたはずだ。 だから死ぬ時は微笑みを浮かべ、周りの人は泣いている。そんな人間になりたい』 「じわって

          最後の一葉 その2

          最後の一葉 その1

          とても信じられないような話だったが、 Rさんは仕事熱心で真面目な人だ。 彼女が大きな目を見開いて、 「絶対に。絶対にほんとの話なんです」 と言うからには、これは信じるに値する話なのだろう。 今から20年ほども前の話だ。 「とにかく毎晩PCにメールが来るんです」 当時、彼女は受験生だった。 憧れの先輩がいる大学に必ず合格する。 そして幼い頃からの夢である看護師に必ずなってみせる。 Rさんはそう心に決めていた。 受験勉強は辛かった。 Rさんが受験しようとしている大学の偏

          最後の一葉 その1

          火事ばか 追記

          先日、たまたまW君と会う機会があった。 君のことnoteに書かせてもらったよ、と告げた。 彼は、ああ、あのことねえ、という顔をする。 「最近はどう?」 僕が尋ねると、ほんの数日前、妙なことがあったらしい。 W君は電車に一本乗り遅れて焦っていた。 このままでは会社の朝礼に参加できない。 最寄り駅でなんとか電車に飛び込んだものの、ドアが閉まらない。 「急行待ちをいたします。しばらくお待ちください」 車内に無常なアナウンスが流れた。 W君の最寄り駅には各駅停車しか止まらな

          火事ばか 追記

          火事ばか

          火事場の馬鹿力、というものを、 果たして人間が本当に持っているかという疑問はかねてからあった。 僕自身は経験がないからだ。 小人を見たりタタリにあったりしているくせに、 火事場の馬鹿力の存在は疑っていた。 という話を友人にしたら、俺の友達ですごいのがいるぜという。 くだんのW君というのは、身長が180センチくらいあるのだが、 体重はどう見ても60キロなさそうだ。 アンガールズのようにひょろっひょろなのである。 顔も青白いし、たまに体調を崩して仕事を休むらしい。 女の子と目

          棒立つ男

          F君がスーパーの夜警のバイトをしていた時のこと。 F君はその夜、 懐中電灯を持ってだだっ広い駐車場をぶらぶら歩いていた。 たまにやんちゃな少年達が自動販売機の下でたむろしているのを注意するくらいで、 ほとんど問題らしい問題は起こらなかった。 いつもの慣れたコースを歩き、戻ろうとした時。 懐中電灯の灯りの中に、唐突に人影が現れた。 びっくりしてF君は電灯を取り落としそうになった。 子供くらいの身長だった。 フルフェイスの黒いヘルメットに黒い革つなぎを着ている。 そして黒い

          トイレの怪談

          Rさんの実家はかなりの頻度で出るという。 郊外の古い一軒家なのだが、 あまりに家鳴りが激しいので一度神主さんにお祓いに来てもらったらしい。 そしてありがたいお札をもらい、 家の各所にそれぞれのお札を貼った。 すると家鳴りはぴたりとおさまった。 そのまま何年もお札は貼りっぱなしだったのだが、 Rさんが京都で一人暮らしをしはじめてから一年過ぎ、 久しぶりに実家に帰ったらはやり家鳴りがする。 前ほどひどくはなかったのだが、 それでもぴしぴしと軋むように鳴る。 見るとお札は貼り

          トイレの怪談

          気になるあいつ その2

          Uちゃんは、やはりKのことがイヤなので、 彼が辞めないなら自分が辞める、と店長に直訴した。 店長からしてもUちゃんの方が主戦力だったのだろう。 仕方なくKを辞めさせることにした。 ただし、自分の名前だけは出さないで欲しい、 とUちゃんは店長に念押しした。 やっかまれて何をされるかわからない。 それから数日。 Uちゃんの生活には平穏が訪れた。 一度店長が、 「あいつ、やっぱりヤバかったよ」 と言いながらKの使っていたロッカーを見せてくれた。 中には、隠し撮りしたと思しき

          気になるあいつ その2

          気になるあいつ その1

          Uちゃんは今から十年前、コンビニでバイトをしていた。 「最初からヘンな人だな、って思ってました。でも店長の知り合いらしいし」 中年過ぎの男だった。Kという。 二十代前半でかためられたバイト仲間の中では浮いた存在だった。 店長のA氏は苦笑しながら、 「ま、ちょっと暗いヤツだけどさ。悪いヤツじゃないし。仲良くやってくれよな」 とバイト連中に言った。 メンバーは店長の知り合いならしょうがないか、というあきらめ顔。 ただ、Uちゃんだけは生理的嫌悪感を覚えた。 「別にブサイク

          気になるあいつ その1

          集合ポスト

          Kさんは独身三十歳の男性。 マンションに一人住まいだ。 ある夜、仕事に疲れて帰り、 集合ポストに寄ると、見慣れぬ男がいた。 「あれえ、あれえ、おっかしいなあー」 と言いながらポストをがさがさ引っ掻き回している。 と、男はくるりとKさんの方を向いた。 「あの。このマンションって、郵便物泥棒って出ますか?」 Kさんは被害にあったことがないので、 「さあ……。僕は経験してないですけど。何か盗られたんですか?」 と言った。 男は少し困った顔をし、「まあねえ」と言うと、

          オニ

          あえて漢字を使わず、オニと書く。 古くは“陰”と書いてオニと読んだ。 差別されていた人達が面をつけさせられ、 憂さ晴らしのために人々から石を投げつけられた。 縁起の悪いものを、石で追い払ってしまおう、と。 それが節分のはじまりだ。 石を投げられた人の恨みが形となり、オニが生まれた。 まっこと、この世で一番恐ろしいのは人の恨みではないだろうか。 鬼子母神にしても鬼婆にしても般若にしても餓鬼にしても、 もともとは人間なのだ。 オニについての記事を書こうと思った。 二百文字ほ