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集合ポスト

Kさんは独身三十歳の男性。
マンションに一人住まいだ。

ある夜、仕事に疲れて帰り、
集合ポストに寄ると、見慣れぬ男がいた。

「あれえ、あれえ、おっかしいなあー」

と言いながらポストをがさがさ引っ掻き回している。
と、男はくるりとKさんの方を向いた。

「あの。このマンションって、郵便物泥棒って出ますか?」

Kさんは被害にあったことがないので、

「さあ……。僕は経験してないですけど。何か盗られたんですか?」

と言った。
男は少し困った顔をし、「まあねえ」と言うと、
またがさがさと何かを探し出した。


最初、陰になっていて見えなかった。
男は左手に草刈り用の鎌を持っていた。
鎌でがさがさと郵便物を微塵切りにしていたのだ。

「あれえ、あれえ、おっかしいなあー」

と言いながら。


Kさんは男を刺激しないよう、
自分の郵便物を取ると、ゆっくりとその場を離れた。
そして部屋に入ってしっかり施錠をし、
すぐに匿名で110番した。

警官が現れた頃には、男は姿を消していた。
無人のポストに大量に溜まっていた地方新聞やDMやチラシが、
こま切れにされてポストの下に積まれていた。



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