見出し画像

消毒用アルコールの至適濃度はなぜ「76.9~81.4vol%」と幅があるのか。

 2022年5月現在、「消毒」はもう日常生活で欠かせなくなった。
 一時期、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水も出回ったが、やはり一般的な消毒は「消毒用エタノール」が確実だ。
 標記の問いだが、結論から言うと、これまでの数々の実験データや論文報告、経験などに基づくものとされており、明確な根拠を見つけることができなかった。

消毒用エタノールの至適濃度範囲

 日本薬局方で定義されている濃度が「76.9~81.4vol%」(15℃)で、それに準拠したものが主に「消毒用エタノール」と呼ばれていている。
 しかし、殺菌効果の至適濃度範囲に国際的な定義はなく、
  ・米国薬局方:68.5%~71.5vol%
  ・WHOガイドライン:60~80vol%
など、世界的な基準はバラバラ。
 濃度の測定法が「蒸留法」や「ガスクロマトグラフィー法」など異なっていることも一要因だと思う。
 それらを反映してか、「消毒剤マニュアル第5版(健栄製薬)」では、

エタノールの殺菌力の最適濃度は大体 50~80%の間が適当とされている。

と記載されていたり、「医療現場における手指衛生のCDCガイドライン」では

アルコールの抗菌作用は、60~95%が最も有効である。

という旨の記載だったりする(ここでは殺菌と抗菌の違いはあるが)。

 これらの情報をまとめると、だいたい60~90%くらいの濃度範囲内であれば、消毒用として使えるようだが・・・。
 もっと明確な根拠が欲しい。
 分子レベルで考えてみよう!

エタノール溶液の安定性「エタノールクラスター」

 エタノール溶液は、エタノールと水が会合し、「エタノールクラスター」というものを形成しているらしい(下図参照)。
 このクラスター、分子組成比でエタノール:水=1:1となるときに最も安定化するようで、その濃度の時の殺菌力が最大となるようだ。
 分子量でみると、エタノールは46.07、水は18.02なので、分子組成比1:1だと重量換算で71.88w/w%になる。
 要は、この濃度で殺菌力が最大となると考えればいい。

エタノールクラスタ

 この考えで行けば、前述した60~90%という解釈もあながち外れてはなさそうだ。

 しかし、一言で「濃度」と言っても重量パーセント「w/w%」と容積パーセント「v/v%」がある。

重量パーセント(w/w%)と容積パーセント(v/v%)

 重量パーセントは日常生活の中に普及しており、医療従事者でなくとも馴染みのある表記方法。単に「%」と書かれていたり、「Wt%」と表記されることもある。
 これに対して、容積パーセントは各専門分野で用いられることが多い。「Vol%」と表記される事も多い。

 算出方法はそれぞれ文字通り、w/w%は重量(mgなど)を重量(mgなど)で除して、v/v%は容積(mLなど)を容積(mLなど)で除して算出する。
 ※重量容積パーセント「w/v%」というもあり、重量(mgなど)を容積(mLなど)で除したもの。これも専門分野でしかほとんど使われない。

 重要なのは、v/v%は温度や比重などに影響を受けて値が変動すること。
 w/w%はその影響を受けない。
 なので、日本薬局方の消毒用エタノールの製法(下図)や、酒税法のアルコール度数測定は温度が「15℃」と定められている。

スクリーンショット 2020-10-28 15.57.09

 

エタノール水溶液「62.9w/v%」は消毒用エタノールの濃度範囲か?

医療用の消エタはv/v%だが、amazon等で売られているものはw/v%が多い。why??

製品名の数字は、酒類などでも使われる「アルコール度数」としての表示で、容量基準でのアルコール濃度(vol%)を表しています。一方、成分表示は重量%(wt%)での表示が義務付けられている(食品としては)ため、重量基準でのアルコール(エタノール)濃度を表しています。

消防法上でも重量%表記。

吉田製薬MR情報。
塩化ベンザルコニウムをエタノール(消エタ濃度)に溶かした製品(ベルコムローション®︎)は、ベンザルコニウムの濃度もエタノールの濃度も表示義務がないとのこと。
しかし製品のボトルには「0.2w/v%ベンザルコニウム塩化物エタノール擦式製剤」と表記はしてある。

医療用アルコールも元々はw/v%表記だったようだが、アルコールは比重が水よりも小さいため、20年ほど前からvol%記載になったらしい。

比重が小さいとvol%表記が望ましい?
アルコールの規制対象も学ばねば!

【参考資料・サイトなど】
消防法上、消毒用アルコールの濃度が60%以上(重量%)の製品が危険物に該当
消防法(危険物該当性)
エタノールクラスター
エタノール濃度と菌・virus効果の分かりやすい図
エタノール濃度を考える際の論文一覧
ケンエー海外論文pickup
菌種別のエタノール効果論文いくつか
各種消毒薬の特性(ヨシダ製薬)参考文献
アルコールの殺菌機構
日本の酒税法ではアルコール度数は温度が15度の時の体積濃度を測るとされている
殺菌や滅菌の研究結果等で用いられる指標「LR」とは?
・エタノールと水を混ぜたときに体積が小さくなるわけhttps://www.kagakudojin.co.jp/special/qanda/index06.html
学位論文?「水とエタノールの混合における体積の減少」
比重とは

仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。