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【Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”】稲森安太己さんインタビュー(2)

2023年9月13日、杉並公会堂小ホールにて開催する【Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”】に向けて、委嘱作曲家の稲森安太己さんにインタビューを行いました。今回の新作、《Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827》についてのお話の続きです。

シューベルトとミュラー / ロマン派の音楽と自分

—24曲の曲順についてなのですが、今回の作品はシューベルトの原曲通りの順番ではなく、ミュラーの元の詩と同じ順番となっています。順番を原曲から入れ替えた理由というのは、何だったんでしょうか。

稲森   詩の内容よりも、曲の理由が結構大きかったです。ミュラーの並べ方にして、その順番で聴いてみたらどうなんだろうって。そうしたら意外と、違う世界が、面白い世界があるなって感じたんですよね。
 シューベルトの並びって、セットで聴くように作曲してるだけあって、相当ドラマチックというか、背負ってるものがでかい。
 僕は、ロマン派の音楽がすごく好きなんですけど、唯一、今日の現代人としての僕の感覚から相容れないのが、大きいものへの憧憬。例えばドイツのロマン派の画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの絵画って、険しい自然の風景が多いんだけど、そういう絶対に人を拒絶するような、人が触ってはいけないもの、立ち入れないものをロマン派って表現しようとしてるじゃないですか。そこに、フリードリヒが必ず人間を描くんですよ。人間がそんなところにいたらおかしいのに、人間をほとんど絶対描く。
 そういう感じが特に『冬の旅』はすごい強くて、耐え切れないぐらいの孤独とか苦しさの中に、主人公として人を据えるっていうのが、やっぱり結構きついなぁっていうのがあって。それは現代人として僕は感覚的に本当にきついんですよ。だからそれをそのまま味わうのは、もう余計なお世話ですっていう感じは結構ある。例えばオペラなんか特にそう。悲劇のヒロインとかってすごく多いですけど、その悲劇を押し付けてる部分はもう僕としてはすごいどうでもいい(笑)。だけど、歌がうまかったら聴いていたいっていうぐらいの感じなんです。
 ロマン派の人たちが表現として求めた世界っていうのは、そもそも自分とはちょっと遠いんです。ロマン派の音楽が好きだし、ロマン派の人たちがそういう表現を求めた理由も、勉強したこととしてはわかる。でも自分の素直な感覚からして、本当にロマン派の音楽に自分は源流があるのかって言われたら、結構、別もの。ロマン派の音楽を楽しんで、素朴に聴いて味わって育ったけど、でもその人たちが取り組んだこととは、ちょっと自分がやってることが違うっていう自覚はある。
 だからちょっと息しやすいように、っていう構成を探したっていうのがあります。でも適当に順番を変えるほどには遊びきれないぐらい、この曲が好き。その落としどころにミュラーがいたって感じかな。

—順番を入れ替えようと思ったのは、最初の構想の時点でだったんでしょうか。


稲森   そう、一番最初の時点です。(ミュラーとシューベルトの詩の並べ方の)順序が入れ替わってることで、他の曲が侵入してくるっていうのを最初考えていたわけだから。結局その案は楽器が足りないっていうことでなくなったけど、順序が入れ替わるというのは初期の段階で取り組みとして既にあったので、創作のプロセスとしてはしっくりきていました。


稲森安太己 (いなもり・やすたき)
1978年東京生まれ。東京学芸大学にて作曲を山内雅弘氏に、ケルン音楽舞踊大学にてミヒャエル・バイル、ヨハネス・シェルホルンの両氏に師事。西ドイツ放送交響楽団、ギュルツェニヒ管弦楽団、ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、新日本フィルハーモニー管弦楽団等の演奏団体によってドイツ、イタリア、アメリカ、ベルギー、日本ほかの国で作品が演奏されている。2007年日本音楽コンクール第1位、2011年ベルント・アロイス・ツィンマーマン奨学金賞、2019年芥川也寸志サントリー作曲賞ほか。ケルン音楽舞踊大学、デトモルト音楽大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て現在、熊本大学特任准教授。

公演情報

【Phidias Trio vol.9 "Re-interpret"】


2023年9月13日(水)
19:00開演(18:30開場)
杉並公会堂 小ホール(杉並区上荻1-23-15)
一般3,000円 / 学生2,000円(当日券は500円増し)

【プログラム】
稲森安太己:
Illusion einer einsamen Reise im Winter 1827 (2023 委嘱新作・初演) ※原曲:フランツ・シューベルト《冬の旅》
Prelude for clarinet and piano (2022)
Ubi caritas et amor for violin solo (2011 舞台初演)

フランツ・シューベルト:
楽興の時 第2番 変イ長調 D780-2

 あらゆる芸術作品は、無限の解釈の可能性を秘めている。ある作品をどのような視点から見つめ、そこから何を見出すのか — そのプロセスには、作品を解釈する者の哲学や価値観、生きる時代が鏡のように映し出される。
 今回のフィディアス・トリオの公演では、国内外で活躍する作曲家・稲森安太己に、「F.シューベルトの《冬の旅》を現代の視点から新たに解釈し、その素材を再構築する」というコンセプトで新作を委嘱。“アイデンティティの喪失”という普遍的なテーマを持ち、時として前衛作曲家の創作の源泉ともなってきた《冬の旅》は、およそ200年の時を経た現在の東京で、何を映し出すのか。ゲストに古典から現代声楽曲まで幅広く精通するテノールの金沢青児を迎え、新たなクラリネット三重奏の表現を探る。

【出演】
テノール 金沢青児(ゲスト出演)
Phidias Trio(フィディアス・トリオ)
 ヴァイオリン 松岡麻衣子
 クラリネット 岩瀬龍太
 ピアノ 川村恵里佳

主催:Phidias Trio
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

*このコンサートはサントリー芸術財団佐治敬三賞推薦コンサートです。

【チケットご購入】
https://phidias-vol9.peatix.com/

【お問い合わせ】
phidias.trio@gmail.com

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