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短編小説 | 顔無し芳子

(1) 般若心経

 芳子は自らの男性遍歴を平然とおもしろ可笑しく語る名手であった。
 とある大富豪に所望され、彼の前で男性遍歴をギターで弾き語りすることになった。報酬は目が飛び出るほどの高額が約束されていた。
 ド変態として知られる大富豪は、傍若無人な男であったが。。

 そこで芳子は、古くから信頼を寄せていた極楽宗極楽寺の住職に相談することにした。

「私はこの仕事を引き受けるべきでしょうか?」

「まぁ、相手はド変態じゃからのぅ。断ったほうが無難じゃがの」

「でも、私、生活にとても困っているのです。なんとか出向いて、報酬をゲットしたいのですが… …」

「まぁ、そういう事情があっては仕方ないのぅ。おぉ、そうじゃ。あなたの身体中に『般若心経』を書いてさしあげよう。」

「ありがとうございます」

(2) 脱いだものは籠へ

 「とりあえず、着ているものをすべてお脱ぎなさい。今、筆の準備をするから、その間にそこに置いてある籠に着ているものを畳んでおきなさい」

 芳子は住職の言葉を疑わなかった。上着、下着をすべて籠の中に畳んで入れた。

「おお、なかなかナイスバディじゃの。では、さっそく般若心経を書き入れて差し上げよう」

 とても柔らかい筆だった。

「はぁ、気持ちいいです。あ、でも墨が冷たい。くすぐったい。悶絶してしまいそうです」

「まぁ、我慢しなさい。これも修行じゃからの」

あ、ああ。筆がこんなに気持ちいいなんて。あぁ、そんなところまでお経を書くのですね。お尻から。。前まで。。は、はずかしゃうございます。


(3) お化粧は。。。

「残るはお顔だけじゃの。」

「あ、あの、顔はさすがに。大富豪にお会いするのに、墨まみれの顔で参るわけにはいきません。お化粧していかねばなりません。」

「おお、それもそうじゃの」

 かくして芳子は、全身に般若心経を書き込み、富豪の館へ向かった。ばっちりメイクも決めていった。

 大富豪の館へ行く途中には、墓場があった。ひっそりとしていて、化け物が出てきそうな雰囲気である。

「うらめしやぁ、うらめしやぁ」と聞こえそうな気がした。

 そのときである。芳子は顔に違和感を持ち始めた。

「顔が熱い、熱い。焼けてしまいそう」

 あまりの熱さに耐えかねて、芳子は来た道を戻ることにした。


(4) 極楽寺に駆け込む

「住職、私、富豪の館へは行くことができませんでした」

「そんなこと、ワシに言われてもなぁ。とりあえず、般若心経の、あぁ、その、お布施ってやつじゃな。」

「お、お金をとるんですか?」

「そりゃ、そうじゃよ。般若心経もタダではないからのぅ」

「住職は私の体を。。全部ご覧になったではありませんか!」

「それはそれ。これはこれじゃな」

 芳子は面目まるつぶれであった。顔を失くしたような気持ちになった。

 芳子は、富豪から報酬を得られないどころか、住職に多額のお布施をすることになったとさ。

おしまい

フィクションです💝


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