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10年後、桜の木の下で(#私的ベタ恋愛小説)


#作者の言葉


 恋愛小説のアイデアはそれなりに思い浮かびます。しかしながら、いざ一行目を書き、その先を書き進めるうちに
「あっ、これは以前書いたような気がする」と思い始めます。
 そして、既視感を強く感じるようになると、もうそれ以上は書く気持ちが失せてしまうのです。

 必ずしも同工異曲が悪いとは言いませんが、過去に一応の形にしたものを単に焼き直すだけでは進歩がありません。やはり新しい何かを書きたいと願わざるを得ないのです。なのに、作品を書き終えた後も、同じテーマで恋愛小説を書いてしまうのは、完全に過去の作品と袂を分かっていないからなのでしょう。

 そこで、過去の作品と完全に決別して新たな物語をつむぐために、私的ベタ恋愛小説を書いておきたいと望むようになりました。もう今後は、以下に書くような作品を書かないようにするために。


#私的ベタ恋愛小説
#10年後桜の木の下で


山根あきら(作)
ベタ小説 | 10年後桜の木の下で


 はじめて「好きです」と言った気持ちはお互いに変わっていないはずなのに、お別れの日が来るなんて、夢想だにしていませんでした。

 「好きです」という言葉は、そんなに軽い言葉ではないはずです。もちろん、相手のすべてを知ってから付き合うわけではありません。だから付き合っているうちに、受け入れがたい一面を知ることがあるとは思っていました。

 ふとした瞬間に、相手の過去の恋愛体験を知ることがありました。聞いても傷つくだけだろうと分かっているのに、私から尋ねてしまったんですけどね。

「彼女のこと、ホントに好きだったんですね。あなたからそんなに愛された彼女は、きっと幸せだったでしょうね」
あなたの前で、笑顔で言ったことがありましたね。

 でもその時、私はこうも思っていました。

「そんなに好きだった彼女とお別れしてしまったのはなぜ?」

 どんなに今、あなたから愛されているとしても、私もいつしかお別れを告げられる日が来る。そう思うと、怯える気持ちが芽生えてしまったのです。

 雪が降った2月はあっという間に、桜の咲き誇る4月になりました。

 なんとなく今日がその日なのだと覚悟はしていました。4月は別れの季節でもあると思っていましたから。

「沙織、もう君といることに疲れてしまった。会えばけんかばかりだよね。別れようか?」

「良幸さん、私も少しそう思っていました。私も良幸さんが傷つく言葉ばかり投げかけていましたから。私たち、離れたほうがいいのかなって」

 付き合いはじめた頃「好きです」「愛してる」と言った記憶は、今でも鮮やかに残っています。だから、「お別れしましょう」と私から言うことはできませんでした。お別れしたほうがいいと感じていても「お別れしましょう」と言ってしまうと、過去に私があなたに言った「好きです、愛しています」という言葉が軽く儚い虚言になってしまうような気がしたからです。

「沙織、好きだからいったんお別れするっていうのはどうかな?」

「それは、いつかまたあなたと出会えるっていうことかしら?」

「それは今は分からない。僕と会わない間に沙織に好きな人ができるかもしれないし。もしそうなったとしても、僕は君を恨まないということさ」

「良幸さんにだって、新しい人が現れるかもしれないわよ。その時、私がまだ良幸さんのことを愛していたら、私はどうすればいいのかしら?」

 我ながら少し意地悪な質問をした。良幸さんという人は、私とお別れしたとしても、私のことを心の片隅においてくれる優しい人だという信頼感があるから。

「沙織、今日でいったん別れて、この同じ桜のもとで10年後に出会うというのはどうだろう?」

 私もまったく同じことを考えていた。「好きです」「愛してる」という言葉が嘘じゃなかったならば、私たちは10年という歳月が過ぎた後でも、また愛し合えるはずだから。

「じゃあ、約束ね、良幸さん。今日はもうこれでお別れしましょう。10年後の今日、この場所でまた会いましょう。必ず来てくださいね」

 私たちは10年後に答え合わせをすることになった。

(おしまい)



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