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短編小説 | 若者たち

「美南、長い旅になるが待っていてくれるかい?」

「なに言ってるの?昭さん。一生会えないわけじゃないんだから。1年くらいあっという間よ。待っています。帰って来るの、一人で」

「なぁ美南、もしも好きな人が出来たら遠慮なんかしなくていいからな。俺は美南が幸せになってくれればそれでいいから」

「昭さん、ひどい。そんなこと言わないで。あたしにはね、昭さん以上に好きな人なんていない。今までも、これからもね。だから、安心して。待ってるから」


 しかし、この時が昭さんとの永遠の別れになってしまった。

 遠洋漁業の乗組員として、南太平洋からインド洋へ行った昭さんの船は、2004年12月26日、スマトラ沖地震による津波に呑まれたらしい。
 船体の一部は島に流れ着いたが、乗組員の大半は行方不明となった。

 昭さんの居場所はいまだに不明だ。「諦めろ」と両親に言われた。

 なにをどう諦めろというの?
 誰が昭さんの遺体を見たの?

 昭さんは絶対に生きている。だって、最後に会ったときだって、戻ってきたら結婚するって約束したじゃない。
 今まで昭さんは私に一度も嘘なんて言ったことがない。


「あたし、ちょっと昭さんに会いに行ってくるから」

「行くってどこに行くのよ。もう昭さんは天国にいるのよ。もういい加減忘れなさい」
母は悲痛な声で言った。

「あたしは行きます。一緒に必ず行くって約束していたから」


 私は単身プーケットへ向かった。
 私だって分かってるわ。昭さんとはもう会えないことくらい。事実を受け入れられていないことも。けれども、自分の気持ちと折り合いをつけるには、プーケットに行くしかなかった。


 聞きしにもまして、プーケットの夕日は美しい。
 水平線に沈むクリムゾンともパープルとも言えぬ、なんとも形容しがたい美しい夕日。この光景を昭さんと一緒に見るために、帰りを待っていたのだ。

 徐々に辺りが暗くなりはじめる。1秒ごとに夜のダークブルーの色に、空が侵食されていった。
 ブラックが空を支配し始めた頃、私は1つの流れ星を見た。

「美南が幸せになりますように」

 昭さんの優しい声を聞いた。まぼろしなんかじゃない。

「分かりました」

 今までに見たどんな流れ星とも違った。昭さんは約束を守ってくれた。

「ありがとう」

 このとき私は、再び前へ歩いて行く決心を固めた。私のためにも、昭さんのためにも。



(終)


🎵若者たち



君の行く道は 果てしなく遠い
だのになぜ 歯をくいしばり
君は行くのか
そんなにしてまで

君のあの人は 今はもういない
だのになぜ なにを探して
君は行くのか
そんなにしてまで

君の行く道は 希望へと続く
空にまた 陽がのぼるとき
若者はまた 
歩きはじめる


⚠️この小説は、この「若者たち」という歌から創作したフィクションです。


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