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短編 | 瞳をとじて

 いっしょに過ごしたあとの別れ際に、いつも瞳を閉じる君。いつものことなのに僕は妙に緊張して、乾いた自分の口唇をなめた。

 目を閉じた君を長い時間待たせたくないから、少しあわてて君の口唇に自分の口唇を合わせた。

 しばらくして口唇を離したとき、そっと微笑したあと、君は満面の笑みに包まれた。

「どうしたの?何かおかしい?」

「ううん、なんか今日の口唇はすごくしっとりしてたから」

 僕は少し照れくさくなったけど、正直に言った。

「この寒さだし、口唇が乾燥しちゃってさ。キスの前、ベロで口唇をなめちゃったの」

 君の満面の笑顔はまた微笑に戻った。

「そっかぁ。ふふふ。気をつかってくれたのかな? っていうかさぁ、リップ、使ってみたら?」

 まぁ、それもそうなんだけどね。リップを使うと、薄い人工的な膜が僕と君の口唇との間を隔ててしまうような気がしてね。直接君の口唇に、自分の口唇を合わせたいから。

「リップを使うと、なんかベトベトするからね。悪いかなぁと思って」

 僕は本当の理由は言えず、思い付いた言葉を口にしてしまった。
「ごめん、ウソついた。ごめんね」と心の中で君に呟いた。

 それはお互いね。私の口紅がついちゃ悪いな、って少し思うけどね。だから少し薄く口紅を塗ってるの。
 そう思ったけど、あなたには何も言わなかった。ごめんね。あなたのこと、少しからかっちゃった。




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