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短編1000文字 | Kabushiki外車の音、あるいは、株式会社のおと

 私の名は亜希子。28歳、職業AV女優。大学院博士課程を満期終了したが、ドクター論文は書かずに退学した。
 外資系金融機関への就職は決まっていたが、右から左へ金を動かすだけの仕事には興味が持てず、入社3日目で退職した。

 いつも学業成績はトップだった。特に努力したわけではないが、乾いた砂に注いだ水のように、あらゆる知識を苦もなく吸収することができた。
 私は頭で生きているわけじゃない。身体を持つ女だ。しかし、頭が良い女は男に敬遠される。人並みに恋をしたが、抱いてくれる男はいなかった。愛されなくてもいい。抱かれたい。処女を捨てたい。



 そんな時に、街でスカウトされた。女として扱ってくれるAV女優になることを即決した。
 ハードな撮影も多かったが、どんな仕事も私は快く引き受けた。その甲斐もあって、AV女優界のスターダムを一気に駆け上がった。

「亜希子ちゃん、ありがとね」

 私はkabushikiという外車を、給料とは別に褒美として頂いた。
 日米中合作のAI搭載の車。撮影場所へも、語りかけるだけで連れていってくれる。撮影場所のみならず、望むところならどこへでも行くことができた。

 5本のAVの撮影が終わったあと、私は心と身体を休めるために、1ヶ月間の休養をとることに決めた。
 ご時勢的に、海外旅行に行くことは控えたが、今までに行ったことがない日本各地をまわることにした。

 研究や勉強、そして今のAVのお仕事。いろいろ経験してきたが、本格的な旅行はこれが初めてだった。

「じゃあ、今度は北海道へGO !!」

 愛車Kabushikiに語りかける。あっという間に北海道へたどり着いた。
 小樽、函館、富良野、知床、稚内。今まで訪れたくても来たことがなかったスポットを次々に満喫した。

 1ヶ月の休みもあっという間に、残り5日になった。そろそろ次の撮影が始まる。あとは都内に帰ってゆっくり休もう!、と思い、自宅の住所をKabushikiに語りかけた。

 その時である。今まで従順に私のいうことを聞いてくれていたKabushikiから妙な音が聞こえた。

「あなたは25日連続で、仕事せず、好きなところへ出かけました。26日目から、しばらくの間『スキ制限』に入ります」

 一生懸命、頑張ってきたのにな。そう言えば、取扱い説明書に『スピード制限』と『スキ制限』がかかることがあります、って書いてあったな。

「株式会社のおと」の音😭。



(1000文字)


以前「毎週ショートショートnote」に応募した作品の再掲です。



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