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初心にかえる思い

16時頃、かなり遅くなったお昼ごはんにパンを一つ買おうと、
パン屋に向かってショッピングモールの1階を歩いていた。

行く途中にあるいつも行列ができているドーナツ屋さんに誰も並んでいない。
「今日は空いているな」と思い吸い寄せられるように、
ドーナツ屋さんのパーテーションで作られた通路を進んでいった。

小腹を満たすものを3つチョイスしお会計へ。


「いらっしゃいませ」
「お召し上がりですか?」
「ポイントカードはお持ちでしたら、こちらへかざしてください」

おそらく緊張しているのだろう。
一生懸命、一言たりとも間違えてはいけないという思いが伝わるほど、
少し震えた若々しい声だった。

学生さんだろうか。
そんな彼女の姿が、見ているこちら側の心が癒されていく。

一生懸命な姿を見て、何か自分の心が浄化されていくような不思議な感覚になった。
何故なんだろう?
買ったドーナツを食べながら、先ほどの光景を思い出していた。

一生懸命なフリをしている自分

今の会社で販売をして約10年。
店舗管理者となって8年が経った。
ずいぶんと販売の現場にいることになる。

それだけ長くいると力の抜き方もわかってくるし、
やる・やらないの選択もある程度できてくる。

また、お客さまからのクレームに対しても、
落ち着いて対応できるようにもなる。
これが経験値と言ってしまえば簡単な話だが、
クレームの内容もパターンがある。
数多く自分が対応しなければならない状況を経験した。
だからこそ、対応方法は私の中でテンプレート化されているのだ。

テンプレートと聞くと少し不愉快に感じる人もいるかもしれない。
しかし、そのことによってお客さまへの対応がスムーズに進むことを考えると、
決してマイナスではなく、むしろプラスに働くのではないだろうか。

そしてそのテンプレートを淡々とこなすのではなく、
演技するように使うのである。
もちろん心からのお詫びの感情はウソでない。

しかし、感情だけにとらわれてしまうと、何もかもが良くない方へ転がっていく。
どうやら私は、感情に支配されると冷静さを完全に失い、
結果としてお客様へさらなるご迷惑をかけてしまうようだ。

そんな経験を数多くしてきた。
だからこそ、冷静さを維持できるためのテンプレートを頭の中に刻み込んだのだ


自分にもそんな時があったよな

何事も経験を重ねると、初心の頃の気持ちを思い出すのが難しくなる。
よほどのエピソードでもない限り、
この女性のような、レジを打つ手が震える経験は忘れてしまうだろう。

当たり前にできることも、以前は当たり前にできなかった。
研修中のバッチを着け、一生懸命にこなそうとしている姿を見ていると、
タイムスリップしたように過去の記憶がよみがえってくるのだ。

「自分もすごく不器用で、初めてチャレンジすることはポンコツもいいとこだったよな」

そう思いながら、待っている時間は苦痛ではなくなっている。
ドーナツを受け取った時に、
自然に「ありがとう」と言葉が出てくる。

「あの子からいい時間を与えてもらったんだ」と思えることで、
職場に戻る足取りが少し軽くなった気がする。


私はいつも、「飲食関係は絶対に無理だなぁ」と思っている。
物販に比べて、時間の経過サイクルが違うし、メニューを覚える大変さもある。

ドーナツ屋さんで例えるなら、
値札も付いていない剥き出しのものを見て、
瞬時に「〇〇ドーナツ」と判断しなければならない。
そんな職人技のようなこと、私には到底できないだろうと思う。

だからこそ、ドーナツ屋さんで働く初心者バッチをつけたあの女性にもリスペクトをおくりたい。



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