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ep.12 乗り過ごす人、見逃す人 | サントリーニ島の冒険

 アラームをセットしておいたものの、日の出が始まって10分後という、素晴らしく悔しいタイミングでハッと目が覚める。スウェットをガバッと頭からかぶり、起きたままの髪でホテルの小さな敷地内をウロウロ。ひらけた場所を見つけ、昇ったばかりの太陽を眺める。

朝の光

 少し先に農家の人たちがもう仕事をしている。手作業で働く農家の人たちの姿がただ美しい。彼らにとって日の出は、作業を始める自然の合図なのだろうか。朝ごはんにほうれん草のパイを買いに行くため、昨日のパン屋に向かうことにする。朝からずらりと並ぶパンに目移りするも、ギリシャ定番の一つであるほうれん草のパイに決める。私のギリシャ料理との出会いは、カナダで友人が連れて行ってくれたファストフード店で、その時食べたほうれん草のパイが美味しく忘れられなかった。

 ほうれん草のパイとコーヒーを買って、海沿いの通りへ出る。温かいうちに一口。期待していたパイはそれほど美味しく感じなかったが、コーヒーを口に入れるとちょっと味が良くなるから不思議。そのまま昨日の夜と同じ道を歩いてみる。昨日引き返したポイントの先がどうなっているか気になっていたのだ。

 気持ちよく晴れている朝。すでにハイキングトレイル目的で歩いている人も多い。ひたすらまっすぐ歩くと、なんとなく馴染みのある景色へ。あぁ、ここは二日目にフィラの方から歩いて折り返したポイントである。つまりあの時フィラから歩いて、ほぼイメロヴィグリ目前まで来ていたのだ。点と点が繋がって線になったところで折り返すことにし、まだ出発まで時間があるので気ままに見つけた階段を降りてみる。

モーニングにゃんこ

 Blue Noteというレストランに辿り着き、そのまままっすぐ進むと青いドームの教会に出た。偶然たどり着いた私はギリシャを旅するきっかけとなったマルちゃんというポルトガル人の写真家兼バックパッカーのことを思い出す。そう、彼の写真がサントリーニへの旅の発想をくれた。おそらくこのドームも彼の写真の場所ではないと思うが、入り組んだ狭い道に迷い混んだ先に、偶然青いドームの場所に出るというシーンをあの頃から思い描いていた私は、なんだかそれが叶ったようで嬉しかった。マルちゃんの撮った写真は日本にあるし、しばらく見ていないのでどこを撮ったものか正確にはわからないが、おそらくイアの街ではないかと思っている。イアには明日行こうと思っているが、私はなんだかこの時点でマルちゃんに「ついに来たよ」と報告したくなった。

海へ続くドア

 チェックアウトの時間が近づき、ホテルでさっと荷物をまとめ、まずはバス停に向かう。次のバスの時刻をチェックして、三度目のJimmy’sへ。もう一度あのケバブを食べたかったのだ。お店に入ると、ケバブを作ってくれるあの彼の姿が見当たらず、代わりに二人の女性が朝食の注文を受けているようだった。私はグリークサラダとケバブを頼んだが、ケバブは12時からだと言われる。確かにケバブをオーダーするには早すぎるか。。バスを逃したくない私は、残念ながらもケバブを断念。グリークサラダを購入してバスを待つ。

大好きになったJimmy’s

 11時過ぎ、フィラ行きのバスがやって来た。本日もあのフィラのバスステーションへ向かうことになる。バスを降りる際、きっちり払おうと思ってお財布の中コインを探す。コロナ後カード支払いが一層主流になった今、人々が一生懸命コインを探す音がなんだかとても懐かしく、良い音に感じた。慣れないせいか、焦ってコインを落とす人も多かった。バスを降りて、まずは今晩のホテルへ。地図は必要ない。それは初日に泊まったのと同じホテルだった。そう、サントリーニでは最初と最後の宿を同じにしておいたのだ。

 ホテルの入り口に立った時から、あのオーナーらしき男性が私に気がつき「戻ってきたな!」とばかりにニヤリとして、チェックイン前の時間帯だったが早速部屋へと案内してくれた。この機会に彼の名前を尋ねると、ネクタリオスだという。この日はレッドビーチに行ってできれば泳ぎたかった私は、その間貴重品をどうしようか迷っていた。ネクタリオスに、セキュリティボックスの鍵があるか尋ねると「あるかな?」という顔でレセプションに戻ってゴソゴソ探し始める。見つかった鍵は、錆びれてゴツゴツしており、遺跡のようだった。もろもろセキュリティボックスにしまうも、スマホは地図のためにも携帯しておきたい。カードは置いていくことにし、25ユーロだけ持って出かける。

 バスステーションに戻ると、レッドビーチ行きのバスがもう停まっていたので、急いで乗り込む。バスのチケット売りは、初めてバスに乗ってカマリに行った時と同じお兄さんで嬉しくなった。直感でこのお兄さんは信頼できそうだと勝手に思っていた。レッドビーチまでは結構な数のバスストップがあり、この旅一番の長いバスライドとなりそうだった。Prehistoric Museumとサインのある場所でほぼ全員が降り、残るは私と数人だけとなる。てっきりレッドビーチ行きの人が多いと思っていたので、ミュージーアムでほとんど降りるとは意外であった。

 その後バスは一度海沿いに出たが、そこは行き止まりでUターンしてまたまた先ほどのPrehistoric Museum前で止まる。なんだか不思議な展開だなと思い始めた私は、注意深くバスの行く道を眺め始めると、なんとなく海から遠ざかっているようだ。チケット売りのお兄さんは、乗ってきた乗客に必ず行き先を尋ねるのだが、気のせいか一人の乗客がフィラと言っているように聞こえた。ん?これはフィラに戻るバスということか?と小さな焦りが芽生え始め、グーグルマップを開くと、あれよあれよとレッドビーチから遠ざかっていく。

 背中が冷たくなった私は途中のバス停で降りようか。でもそれならば知らないところで降りるより、いっそ首都フィラに戻った方が安心でないかと迷い始める。途中お兄さんからSanto Wineのコールがかかり、ここで降りてSanto Wineを見学して、レッドビーチ行きのバスを待つのもありかと思ったが、寄り道する気分でもなく、何よりもまずは本日のメインであるレッドビーチに行きたかった。そうこう迷っているうちにSanto Wineについてしまい、バス停には何故か昨日も見たような中学生と思われるギャングたちが、ずらりとバスを待ち受けているではないか。なぜだ。なぜワインショップのバス停にいるのか?

 ギャングたちが乗ってくるのは明らかで、降りたいと思ったものの即時の判断もできず後方座席にいた私は、バスになだれ込むギャングたちに一気に囲まれる。またしても夜のクラブ状態となったバスは一刻も彼らを降ろすべく進むしかない。バスの通路もギャングたちで埋め尽くされ、叫んだり押しあったりふざけたり。学校帰りなのか途中のバス停で少しずつ降りていくものの、ほぼ満員、小籠包の蒸し器状態のバスはついにラストストップを迎えた。

 ギャングたちがいなくなったあと、チケット売りのお兄さんに「レッドビーチを逃してしまった」と伝えると、すんなり「このバスに残りなさい」と言ってくれた。蒸し暑いバスにギャングたちと乗ってぼーっとして小籠包状態の私を乗せたまま、再びバスはフィラを出発して走り出し、今度は降りるバス停を逃すまいと前方の席へと移った私をスキップして、お兄さんはバス料金の回収を始めた。

果たしてこの人は無事辿り着くのでしょうか。。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

本日は20度近くになる晴れのロンドン。ふと気がつくと、今いるカフェの行列がすごいことになっているので、そろそろ出なければと思っている私です。バナナブレッドという言葉がさっきから飛び交っています。

「サントリーニ島の冒険」は、100ページを超える手書きの旅誌をもとに、こちらnoteで週更新をめざしていますが、最近手が止まっていました。。

ケバブは焼き鳥であるという喜々の発見に至った、一つ前の記事はこちらです。

これまでの記事はこちらに綴っています。お時間があればぜひ訪れていただけますと嬉しいです。