膝丈のスカートと肌色ストッキング

人間ドックのために厚生なんとかという施設に来たところ、その贅沢な作りと運営に驚いた。

絨毯で覆われた広いスペース、高い天井に間接照明。常時視界に入るほどあちこちに設置されているフラットパネル。古さや薄っぺらさがひとつも感じられない、木製の枠組みにクッション性のあるシートのついたおしゃれな椅子椅子椅子。ほどよい音量で流れるジャズ。豆から挽くコーヒー。

そこらじゅうにキャビンアテンダントさんのようなメイクと衣装の看護師さんがが控えていて、ひとつの検査が終わるたびにすかさず別の看護師さんがにこやかに最適なトーンで声をかけて次の検査へ導く。

キャビンアテンダントさんのような衣装という表現は妥当ではなかったかもしれない。やや厚手の化繊だろうか、Aラインに腰の細まった半袖膝丈ワンピースが、キャビンアテンダントの衣装を想起したのだ。さらにそこに肌色ストッキング、きれいに整えられた髪型、しっかり目のメイク、首元にとろんとした素材のスカーフがそろっている。いまどき多くの看護師はズボンを着用しているので、膝丈のスカートワンピースの看護師群はかえって看護師的でないように感じられ、物珍しく見えた。

お待たせいたしましたどうぞこちらへ、と頭を下げ手を広げて方向を変えて歩き出す、あるいは携帯端末を操作しする、そんな所作のひとつひとつで、ワンピースの中で身体が泳ぐ。

ワンピースの特徴はその身体の泳ぎかたにある。足を固定したまま上半身をひねるとき、あるいは腕を上に伸ばすとき、ワンピースの形状はその3次元的な動きにある程度までしか追随しない。ほとんど上半身の動きに合わせて向きや位置を変えてしまい、ワンピース自体はひねったり形を変えたりしないのだ。だからワンピースだけが固定されていてその中を身体が泳いでいるように見える。
シャツにスカートといったツーピースではこうはならない。腰の部分で身体と接続されているからだ。ツーピースの場合は、たとえば上半身をひねるときはシャツの肩の部分の位置が回転し腰の部分は回転しないので、結果としてシャツの形状が捻られる。

そんな風に考えながらワンピースの看護師さんとツーピースの事務員さんを見比べたりしていた。
いずれにせよ、生活の形態によっては絶滅危惧種とも感じられる膝丈のスカートに肌色ストッキングをこんなにもたくさん一度に目にするとは、大変に稀な機会だろう。

南無阿弥陀仏。

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