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2022阪大国語(文学部)/第一問/解答速報

【2022阪大国語(文学部)/第一問/解答速報】

出典は岡野八代『フェミニズムの政治学』。

問一「例えば責任の場合は、教師が学生によりよい教育効果をもたらすために、ある特定の講義については専門の講師を雇い入れることによって、自らが直接的な行為をなさなくても果たしたことになる」(傍線部(a))とあるが、この例において、なぜ教師は責任を果たしたと言えるのか、責任の意味を明らかにしながら、説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
主体の行為に対する意志を重視する義務と異なり、責任は行為の結果の成否に関わり他者との分有が可能なので、自らの専門としない分野の講義については、その専門家に託すことがより良い成果を生むと考えられるから。(100)

〈参考 S台解答例〉
グディンよれば、責任とは、直接的行為を命じる義務とは異なり、責任者の行為がつねに必要なわけではなく、特定の効果がもたらされることを引き受けるよう命じるものなので、教師が専門の講師に講義を委託しても、学生によりよい教育効果がもたらされるから。(120)

〈参考 K塾解答例〉
教師が直接に学生を教えるという義務には反するが、特定の結果が生じるように請け負う責任の倫理からみれば、専門の知識や技能を有する講師に任せよりよい教育達成を得ようとする方が学生に対する責任を果たすことになるから。(105)

〈参考 Yゼミ解答例〉
責任は義務とは異なり、ある結果を生じさせる帰結重視の倫理である。その意味において、教師が直接自分で教えなくても、専門の講師に講義を任せることで間接的に学生によりよい教育効果をもたらされれば、教師の責任は果たされているから。(111)


問二「契約モデルに囚われている」(傍線部(b))とあるが、このモデルに囚われていると、なぜ家族における責任が特殊な責任のように思われるのか、説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
契約モデルに従うと、一般的な責任は自発的に取り交わした契約がもたらす結果に対して当事者双方が負うことになるが、家族における責任は子をもつと決めた親が一方的に担うことになるので、前者とは区別されるから。(100)

〈参考 S台解答例〉
契約モデルでは、責任は個人の自発的行為から生じるとされるので、偶然に否応なくおかれた状態での他者関係のなかで生じる、公的な場における責任とは異なり、自発的に結んだ関係性である家族関係においては、責任を負う者が一方的に責任を担わなくてはならないから。(124)

〈参考 K塾解答例〉
自発的に結ばれた契約は結果に対する責任を生むという考えに従えば、契約を交わした双方に責任があるビジネス契約とは異なり、子をもつと決めた親に自発性が認められる家族では、親は子に対し一方的な責任を負うと言えるから。(105)

〈参考 Yゼミ解答例〉
責任は個人の自発的行為から生じるとする契約モデルに固執して考えると、家族における責任は、子をもつことを決意した親の自発的行為による一方的な倫理となり、その代替不可能性は公的な契約関係とは異なる特殊なものだということになるから。(113)


問三「そうだとすれば「特別な責任」はやはり、親密な関係性がなければ果たし得ないのではないかという点」(傍線部(c))について、グディンはどのように考えているのか、「そうだとすれば」の「そう」を内容を示しながら、説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
他者への責任が関係性から生じ、その中で責任の重みも変化するとしても、傷つきやすい存在の被る危険性を避けられる者が責任を負うことが合理的であるから、親密な関係性に「特別な責任」を帰属させる必然性はない。(100)

〈参考 S台解答例〉
傷つきやすい相手に危害を生じさせない責任が、関係性から生じ、その重みも関係性で変化すると理解しても、危害を避けるという結果がもたらされることが重要なので、責任は最終的に最もよく果たせる者が果たすのが合理的であり、必ずしも責任を果たす上で親密な関係性が必要なわけではないと考えている。(141)

〈参考 K塾解答例〉
自発にせよ偶然にせよ、相互の依存の程度によって異なる関係性から責任が生ずるのであり、傷つきやすい立場に置かれた者への危害という結果を避けるために、原因を問わず、それを回避しうる者に責任を求めるのが合理的である。(105)

〈参考 Yゼミ解答例〉
傷つきやすい相手の「特別の責任」とビジネス契約の責任の違いが相互依存の程度だとすれば、前者には親密な関係が不可欠だと考えられがちだが、危害から守るという結果こそが重要なのであり、その責任を果たせる者が果たすことが合理的であると考えている。(119)


問四「「分有可能性」の実践的な価値」(傍線部(d))とあるが、「傷つきやすさを避けるモデル」による責任論では、なぜ責任を分かちもつことが可能になるのか、またそのことによって実際にどのような価値が生じるのか、本文中で言及される具体例を用いて説明しなさい。(4行)

〈GV解答例〉
困窮する母子に対し政府が母の子育てを支援することが有効なように、当モデルは傷つきやすい存在の危害を避けるという結果に関わる以上、その目的を果たせれば責任は分有されてよく、結果、帰属や契約によらず他者への責任を分有すべきだとする価値が生じる。(120)

〈参考 S台解答例〉
子の危害を避ける責任は、必ずしも状況を惹起した母親が果たす必要性はなく、政府が最もよく責任を果たせるのであれば政府が果たした方がよいから。またそうすることで母親と政府各々が関係性に即した責任を果たし相互に補完し合えば、子の危害を避けるためにより良い効果が得られるという価値が生じる。(141)

〈参考 K塾解答例〉
福祉に依存せざるを得ない母子を社会的コストとして批判せず、母子が飢えるという結果を避ける責任を政府が果たせば、母の子に対する責任も補完される。こうして互いに責任を果たし合う社会的な共同性という価値が実現する。(104)

〈参考 Yゼミ解答例〉
子の貧困という危害を避ける結果をもたらすうえで、母親の責任と政府が福祉政策によって果たす責任は両立し、補完し合うから。これにより母子の生活が保障されるだけでなく、社会の構成員が相互に責任を果たし合う共同性実現という価値が生じる。(114)

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