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うちの主人が怪しい


今日は休日。
休日の主人はいつも昼過ぎまでゴロゴロしていて、私が起こしてやっと起きる。

今日は誰かからの電話を受けると、寝たふりをしている私を横目にいそいそと出かけて行った。
昨年私のためにプレゼントしてくれた可愛いバッグを持って。
私は気に入らなかったら一切使わなかったとはいえ、そのバッグをどうするつもり?
私は耳がいいから、電話の向こうで女の声がしていたの、聞こえてるのよ?

私が主人と出会ったのは3年前。
街中で声をかけてきたのは主人から。
その後すぐに一緒に暮らし始めた。

主人はとても心配性で、私が外に出ることを好まない。
私は日がな一日家でのんびりするだけ。
整理整頓された清潔なおうちで、寝て起きてごはんを食べるだけの毎日。
食と住に困らないのはありがたい。私は洋服は興味ないから衣はいらない。
その点では主人に感謝している。

たまには昔の仲間に会いたいなと思ったりもする。
昔は夜中に仲間と集まってパーティー三昧だったっけ。
こういうのを束縛って言うのかもしれないけれど、私はそれでも満足だった。
主人が私のことを溺愛しているのがわかっていたから。

でも、他の女がいるのなら、それは話が違う。

よく考えれば最近の主人の様子はおかしかった。

昔は毎晩同じベッドで寝ていたのに、今はベッドも別。
昨晩、彼のベッドに潜り込もうとしたら、主人は私を追い出して、私は別室のベッドへ連行される始末。

先週は他の女の匂いをさせて夜遅くに帰ってきた。
気づかないとでも思ってるのかしら?
私、耳だけじゃなくて鼻もいいのよ?

ずっと幸せだったとと思う。
でも、それは主人が私の相手をしてくれればこそ。
こんなことなら主人と一緒に居ることにするんじゃなかった、と思うこともある。

「ただいま〜」

あ、主人が帰ってきた。なんだかご機嫌な声。

ベッドルームに入ってくるなり主人は言う。
「また俺のベッドで寝てたのかい?
かわいいベッドをプレゼントしたんだからせめて1週間くらいは使ってくれよ。
奮発したんだぞ?」

癪なので微動だにしない私。
「今朝黙って出掛けたから拗ねてるのかい?」

そんなことはいいのよ。
で、貴方が連れているその彼女は何なのかしら?
私のバッグを使っている若い女を怪訝な目で見る。
若いと言うよりは、幼いと言った方が正しいかもしれない。

彼女は怯えた目でこちらを見ている。

「そんな怖い目で見ないでくれよ。
先週の夜に街で出会ったんだ。
出会った頃のキミみたいだったから、見過ごせなくてね。
怪我をしていたからそのまま病院に行って、今朝ようやく退院できたんだ。
うちで一緒に暮らそうと思ってるんだけど、許してくれるかい?」

呑気な主人ののんびりとした声。

私が許さないなんて思っていない言い方ね。
そのことにさらにイラッとしたので、返事もせずにぷいっとそっぽを向いてみる。

しばしの沈黙。
主人の眉毛が八の字になっている。これは彼が困っている証拠。

主人の懇願するような顔と、彼女の怯えた顔をしばし眺めていたら、仕方がないという思いが強くなった。

私は無言でベッドから下りると、彼女に近づく。
私のキャリーバッグから出てきた小さな彼女の頬を舐め、主人を見上げつつ了承の旨を伝える。

「んにゃーーーーーお!」







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