見出し画像

映画パンフレット感想#22 『辰巳』


公式サイト

公式X(Twitter)アカウントによる紹介ポスト

感想

期待を上回る面白さだったので、上映終了後すぐに売店へ直行し購入した。私が感じた本作の魅力を大きくふたつ挙げるとすれば、「すべての登場人物が魅力的で生き生きしていること」と「ジャンル映画的なわかりやすい面白さ」だ。

「登場人物が魅力的」なのは、俳優たちの確かな演技力とその熱演、そしてそれを引き出しカメラで捉えた監督をはじめとした制作スタッフの技術が素晴らしいからだと思った。また、「ジャンル映画的なわかりやすい面白さ」は、暴力団の下部組織(?)で起きた小さな揉め事の中で、私情に突き動かされた主人公を中心に物語を展開する、人情とバイオレンスが同居した私的ヤクザ映画のような本作のスタイルが、そういったジャンル映画のエッセンスを研究し煮詰めた結果生まれたのではないかと思った。

パンフレットには、まさに私がそう感じ取った魅力にフィーチャーするような内容の記事が並んでいたのだった。主演の二人には熱を感じる長めのインタビュー記事、他の主要キャストにもそれぞれ個性が表れたミニインタビューがあり、俳優陣にしっかりスポットライトを当てている。監督へのインタビュー記事もボリュームがあり、俳優を賞賛するコメントや、名作映画(ドラマ)への愛を語りつつジャンル映画として面白さを追求した話などが特に印象的だ。

俳優へのインタビューでは面白いエピソードがいくつも明かされているが、とりわけ足立智充のノリの軽さと、藤原季節の熱い意気込みは特に印象に残っている。さらに、葵役の森田想へのインタビューでは、現場の風通しのよさを表すエピソードとして、森田の意見が後押しとなって当初台本に書かれていたあるシーンをカットしたことが語られているが、これは本当によかった。意見をした森田の思いや考えに深く共感したし、カットは大正解だったと思う。

極め付けが、監督が『辰巳』を撮るにあたりオマージュを捧げた作品をまとめたリスト記事だ。全20作品のタイトルが挙げられ、それぞれに監督が作中のどのシーンが該当するのか解説したコメントが付与されている。どれもが有名な作品で、「確かに似てる!」「なるほど!」と一つ一つ確認していく作業が楽しかった。他にも、映画評論家の松崎健夫氏の批評や、巻末にはシナリオ(脚本)が収録されている。

鑑賞中はやはり私も『レオン』を想起していたが、パンフレットを読み終わって改めて振り返ったときに、黒澤明監督の『生きる』のこともふと思い出した(パンフ記事中には挙がっていないタイトル)。一度死んだ(壊れた)ひとりの人間が息を吹き返す物語だからだ。葵が辰巳の車を修理するシーンは、本作における指折りの名シーンで思わず涙腺が緩んだが、『生きる』での「ハッピーバースデーの合唱」と同じ意味を持つのかもしれない。

私も“出荷される前の牛みたいな顔”を会得してみたいという憧れを胸に筆を置く。

この記事が参加している募集

映画感想文

映画が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?