見出し画像

映画パンフレット感想#16 『美と殺戮のすべて』


公式サイト

公式X(Twitter)アカウントによる紹介ポスト

感想

大まかな内容や本文ページの雰囲気は、上記にて引用した公式Xアカウントによる紹介ポストから確認できる。『π<パイ> デジタルリマスター』パンフレット感想でも絶賛した、SHOCHIKUシネマブックスによる仕事、さすが。一見、写真ページの割合が多く、テキスト量が乏しい印象を受けたが、読み終わってみると読み物としても十分満足できた。ちなみに、本作では多数の人物が登場するが、ほぼ全員を網羅したページもあり、振り返りに役立つものとなっている。

映画では、ナン・ゴールディンの壮絶な半生や創作活動と、ナンと仲間たちがオピオイド危機の元凶であるサックラー家と闘う姿が並行して描かれるが、パンフレットでもその両方が等しく取り上げられている。この2つのテーマが本作にとって不可分で、この接続が本作を傑作たらしめているのが改めてわかる。

ナンの人物像は、彼女のありのままを曝け出す生き方や言動が本作からも十分見て取れるが、実際に協働した人物による寄稿/インタビューから、さらに等身大の姿を窺い知ることができる。とりわけ、ナンの存在がデビューのきっかけだという俳優の渋川清彦氏へのインタビュー記事は、渋川氏のフィルターを通したものではあるが、ナンの人柄が伝わる内容だ。語られるエピソードも面白く、読んでいて思わず顔がにやけてしまった。

ジャーナリストの河野博子氏の寄稿では、パーデュー・ファーマ社やサックラー家がいかにオキシコンチンの販売量を拡大させていったのか、初期段階からその裏で暗躍していた存在についても記されている。同社が手始めに販促ターゲットとした地域とその理由は、納得すると同時に人命を軽視した戦略っぷりに憤りを覚えた。

映画監督の原一男氏の寄稿は、原監督独自の視点で語られるというより、映画の内容をなぞるような記述が大半で、映画『水俣曼荼羅』を2021年のベストにするほど原監督を敬愛している私としては、期待をやや下回るものだった(一部、誤認もあるような?)。ただ、冒頭に引用した公式の紹介によると「作品&監督評」なので、映画の内容を整理するのに徹したのかもしれない。

公式の紹介には書かれていないが、「プロダクションノート」記事が4ページ分も掲載されており、情報も充実している。特に印象に残っているのがプロジェクト始動時の流れ。その経緯について詳述されているが、本作が思った以上にナンとP.A.I.N.の意向によって製作されたものであることがよくわかる。ローラ・ポイトラスの映画でありながら、ナンの作品でもある。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?