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映画パンフレット感想#20 『フォロウィング 25周年/HDレストア版』


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公式X(Twitter)アカウントによる紹介ポスト

感想

過去に類を見ないほどの思い切ったパンフレット。『フォロウィング』のパンフでありながら、『フォロウィング』の物語や描写の解説はほぼ皆無なのだ。しかしそれを補って余りあるほど、作劇の構造、音楽、映像など、技術面についてひたすらに綴られている。もはや「映画『フォロウィング』のパンフレット」というよりも、「クリストファー・ノーラン監督の映画制作の歴史を、長編デビュー作を中心にフィルモグラフィーから解剖する小冊子」といった方が正しいかもしれない。

ページ構成も思い切りがよい。開巻から映画パンフ定番の“イントロダクション”、“ストーリー”と続いたかと思うと、いきなり監督のインタビュー記事が現れる。そのボリュームなんと10ページ。全28ページのパンフレットであることを考えると、内容の約1/3を占めることになる。さらに、内容もインタビュアーの質問に応答するというより、映画学校に招かれた特別講師のノーランが、自身の作家人生を振り返りながら映画製作のあらゆる技術を受講生に伝授する、まるで講義のようなテキストだ。中身は濃く面白いが(「知識がないと金儲けしたい連中に騙されるぞ」みたいな話もあり文字通りに“面白い”)、これが一本の映画作品のパンフレットに掲載された記事だと思うともはや笑えてくる。

上記に引用した公式Xアカウントによるポストで紹介があるように、文筆家によるコラムが2本掲載されているが、こちらも主に技術面(作劇ふくむ)の解説で、監督インタビュー記事の外側をさらに補強するような内容だ。

ノーラン先生の講義で面白いと感じたことを二つほど書き足しておきたい。ひとつは、『フォロウィング』で実践した制作手法のほとんどが、「予算・技術的な制約の問題を合理的に解決するアイデア」であること。私は「ファミコンの描画能力の制限があったからマリオがオーバーオールになった」といった、制約がアイデアを生んだエピソードに目がなく、ノーラン先生が語るエピソードの一つ一つを楽しんだ。もうひとつは、つい先日読んだばかりの『オッペンハイマー』のパンフレットに掲載されていた、キャスト陣が語るノーランのエピソードを裏付ける記述があったこと。例えば同パンフではあるキャストが撮影中のノーランの立ち位置について語った記事があるが、講義ではその狙いや技術論が明らかになっている。

思いがけずクリストファー・ノーラン監督の映画術を学べて棚からぼたもちではあるが、もう少し作品の内容に突っ込んだ記事もあると嬉しかった。私はこの映画を観て、尾行して他者の生活を覗き見ることは、映画を観て人物の物語を追うことに、さらに空き巣に入って操作を加えリアクションや物語を作り出すことは、映画を制作することに似ていると感じた。一方で、「尾行」や「空き巣」は物語中盤で後景化し、物語のツイストや“どんでん返し”的展開にシフトしていき、前半の「フォロウィング(尾行)」の面白さが希薄になり残念に思ったのだった。そのあたりの分析記事も読みたかった。

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