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映画パンフレット感想#18 『パスト ライブス/再会』


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感想

直前に読んだパンフレットが『アイアンクロー』のA4サイズだったこともあり、A5サイズの本作パンフのコンパクトさが際立った。やはり映画パンフはA5やB5のお手軽サイズが個人的には好みかもしれない。またサイズが小さいと、映画作品を主としての“ガイドブック”・"攻略本”感を楽しめるのもよいと思う。

さて、私は本作を今年観た映画の中でもベスト級に楽しんだのだが、「劇中で描写された出来事がどこまで監督の実体験に基づいているのか」、「本作の重要な概念である“イニョン”について監督はどのような捉え方をしているのか」などの点に興味があり、パンフを購入した。そして、インタビュー記事やプロダクションノートでそれらについて言及されており、知的好奇心を十分に満たすことができた。

また、仏教的かつ東洋的な思想である“イニョン”と、西洋的な思想や価値観の差異について、うっすらと思案を巡らせていたが、その点も監督へのインタビューや森直人氏の寄稿で触れられており、理解を深めることができた。この思想がもつ特徴は、本作が描いた3人の関係性の根源にもあたる非常に重要なポイントであると思う。

思わぬ収穫だったのが、劇中の印象的なセリフがスチール写真とともに多数収録されていたこと。本作を観ればわかるように、意味深長で含みのあるセリフが多数登場する(発話する俳優の表情の複雑さもセリフの深みを増す一因となっている)。ただ、記憶力が衰えつつある私は「印象的なセリフが多くて楽しいけど、多すぎて覚えられない」というジレンマに苦しんでいた。そんな矢先、パンフで再びセリフに出会えたのは予期せぬ喜びとなった。とっさに自前のメモに転記した。スチール写真も劇中のフィルム映像とはまた異質の美しさがあってよい。

また、再び鑑賞したい気持ちにさせたのが、映画ライターの成川彩氏が指摘し、監督本人のコメントでも触れられた「ラストシーンの撮影」のある法則だ。恥を忍んで打ち明けると、私は鑑賞中にそのカメラワークの意図を読み取ることができなかった(ちゃんと考えればわかったはずなのに!悔しい!)。ただ、この法則は別のシーンでも適用されているような気がするのだ。これを頭に入れた上で、全シーン見返したいと思ったのだった。

三角関係のラブストーリーという人間同士が憎しみや負の感情を表出しがちなフォーマットにおいて、“イニョン”という人智を超越した概念を導入することで、謙虚な姿勢と他者への思いやりをもつことの尊さを描いた“ラブストーリーの枠を越えた映画”でもある。パンフレットを読んで改めてこんなふうに考えた。

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