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映画パンフレット感想#28 『人間の境界』


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公式X(Twitter)アカウントによる紹介ポスト

感想

本作は、紛争や迫害で自国から逃れ、救いを求めて亡命を試みる難民たちが、ポーランドとベラルーシの国境付近で両国の押し付け合いに遭い、ふたたび命の危険にさらされる過酷な現実が描かれた作品である。実際に起きている国際社会の難民問題のひとつを題材にしているだけに、劇中で明らかにされたこと以上の背景や実情を知りたくなり、パンフレットを購入した。そして充実した記事がその期待に十分応えてくれた。記事数以上にボリュームを感じる、濃密で無駄が削ぎ落とされたようなパンフレットだと思う。

パンフレットの外観や掲載記事については、上記に引用した公式X(Twitter)アカウントによるポストで詳しく紹介されている。記事の一つ一つの内容が濃く、一読するのにも相当な気力と時間を要するほどだった。知りたかった難民問題の背景については、ポーランドとベラルーシだけでなく、EUとロシア、ロシアによるウクライナ侵攻、第二次大戦前にドイツとポーランドの間で生じた類似の事件など、各記事でそれぞれの角度で記されており、たいへん勉強になった。

その中でも驚異的な情報量を誇るのが、ポーランド文化研究者の久山宏一氏の寄稿である。現実の社会的・歴史的背景の解説のみならず、映像面を含めた作品評、アグニエシュカ・ホランド監督のフィルモグラフィに触れつつ分析した作家性など、さまざまな論が全方位で展開されている。個人的に気になっていた「モノクロで撮られた理由」もさらりと明かされているし、私が本作から感じた「人の醜い面と美しい面が均等に描かれている印象」についてもそれに近しい言及があり納得した。

興味深いエピソードはまだまだある。上述した「公式の紹介ポスト」に「監督&キャストインタビュー」とあるが、この「キャスト」とは実際に難民だった経験をもつジャラル・アルタウィル(バシール役)とモハマド・アル・ラシ(祖父役)のこと。二人が語った「難民を演じたことでもたらされたある効能」は、驚きとともに膝を打つような感覚もあり面白かった。また、本作の舞台となった国境地帯で実際に取材をした経験のあるジャーナリストの村山祐介氏の寄稿は、実感を伴っていて、映画で描かれたシーンの強度を高めるような感覚があった。

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