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映画パンフレット感想#21 『リンダはチキンがたべたい!』


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感想

筆でササッと描かれたような輪郭に、単色ベタ塗りで表されるキャラクターなど、独特かつやや抽象的なタッチのアニメーション。それなのに台詞や環境音はやけに現実的で生々しいという不思議な感覚。それは本作が描く、元気いっぱいな子どもたちの(あるいは大人たちの)無秩序ともいえる自由さや個性を、より直感的に表現する効果をもたらしているように感じた。が、なぜこの表現方法に至ったのか、また音声に異様に臨場感があるのはなぜか、どうしたって興味が湧いてしまい、パンフレットを購入した。

そして、その期待に応えるかのように、共同監督であるキアラ・マルタとセバスチャン・ローデンバックの言葉が膨大に掲載されており、その疑問はすべて解消されることになった。二人の監督の言葉は、「本作の企画書から抜粋された制作意図」「インタビュー」「コメントが多数抜粋されたプロダクションノート」の三つの記事で読むことができる。予想に反して、語られる内容はそれほど被ってないことに驚いた。全て読むことで、監督たちが作品に込めた思いが理解でき、また映画を観て感じ取れたことの正体が見えてくる。

寄稿記事も、アニメーションから作品を分析したもの、パリの社会的背景と作品を照らし合わせたもの、アニメ映画として評論したもの、食文化の観点から作品を語ったものなど、多彩なアプローチで4本が掲載されている。

私はその中でも、在仏ライターの髙崎順子氏の寄稿を最も興味深く読んだ。パリ圏に20年以上在住し、作中で描かれたような団地でも数年間暮らしたという筆者は、本作に“リアルなフランス”を感じたという。確かにストライキという現実的かつ社会的なテーマが背景に大きく横たわっている作品ではあるが、カラフルで抽象的な絵で彩られ、アニメーションならではの誇張表現満載なこの映画のどこに……? と思いつつ読み進めると、なるほど、と、発見、が次々に訪れた。特にストライキに関する筆者の見方は感嘆すらした。

パンフレットのデザインは上記に引用した公式の紹介動画にあるとおり、作品同様カラフルで自由を感じられるものとなっている。手元でぺらぺらめくるだけでも楽しいアイテムだ。どうしても購入が難しいという方は、公式サイトのプロダクションノートを一読されることをおすすめしたい。パンフレットのプロダクションノートと同じ文章(一部文字の訂正あり)が掲載されている。

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