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映画の感想殴り書き『アイアンクロー』

私はいつも映画を観たあと、なんの情報も見ずに、まずは感想の殴り書きをしています。本当は整えたうえで公開できたらと思うものの、推敲がとにかく億劫で、そのまま「自分用のメモ」として押入れの奥にそっとしまっています。

が、今回、試験的に、殴り書きをほぼそのまま公開してみます。様子を見つつそのうち削除すると思います。


鑑賞までの流れとか

公開前から話題になっていた。プロレスものなので、プロレス界隈の情報を拾いやすい生活をしている私は、かなりの頻度で情報を目にしていた。プロモーションも、現役レスラーを試写会に招くなどして、プロレスファンにアプローチしやすい手段をとっていたように思う。また、プロレスファンばかりでなく、映画ファンの感想も海外から聞こえる評判も上々だった。

実在したプロレスラーの実話モノ、俳優のなりきり演技とプロレスアクション、事実は小説よりも奇なり的な過酷なストーリー。そしてこの題材の映画で、製作と配給をA24が手掛けるという意外性。話題になる要素も十分だった。業績不振で方針転換を宣言したA24だが、思ったほどビジネスエンタメ色は強まらず、サーチライトピクチャーズくらいに止まっていて、安心した。

もう一つ注目していた点は、監督ショーン・ダーキン。監督の前作『不都合な理想の夫婦』が好きだったので、すでに評価を受けている今作がどのような仕上がりになっているのか非常に興味があった。先に結果を書くと、「父親が“父親”“男”の旧来の理想像に縛られ家庭を顧みない」のとか「家庭が崩壊していく」のとかは共通するテーマだった。また、全編通して映像が暗く彩度も低い。人物の顔もつねに翳っている。「呪われた一家」の「呪い」を感じさせる。

中盤からひきこまれた。

正直、中盤まではちょっと退屈だった。なぜかは自分でもわかっていない。ケビンが、自分の子供に「フォン・エリック」ではないファミリーネームをつけたところぐらいから、「ケビンまで“呪い”に飲み込まれて、“呪い”がいよいよ現実みを帯びてきたぞ…」と面白くなってきた。呪いに飲み込まれるケビンと、あくまで呪い(運)を信じないパム(ケビンの妻)の対比がよい。パムの存在がケビンの“呪い”を解いたようにも思える。もっといえば、ケビンとパムの子どもたち、“新しい一家”が解いた。

呪いとは

“呪い”とはなんだったのか。父フリッツが強調した「呪いに負けないほど強くならなければならない/豊かにならなければならない」の「強くならなければならない」「家族のために大金を稼がなければならない」、そして「期待に答えなければなならない」こそ、一家の呪縛だった。それは指が頭蓋骨に食い込むほど強く鷲掴みにする「アイアンクロー」のように家族を締め付けた。死んだ兄弟たちも、自分の好きな絵を描くことをやめた母も。
(「家族/家庭という名の呪い」というと、同じA24製作のアリ・アスター監督『ヘレディタリー』『ボーはおそれている』を想起したり……)

プロレスシーン

ケビンが場外でブレーンバスターで投げられた際のダメージの度合いは、カメラの近さや音響の演出などで、選手と共に疑似体験するような感覚があった。プロレス観戦で見慣れていた場外ブレーンバスター、改めて呼吸できなくなるほど過酷な技だと思い知った。むろんこれも想像に過ぎないのだけど。

映像の暗さ・黒

映像が暗く、影の“黒”が強調される作品なので、一度だけでいいから黒がちゃんと黒に見えるドルビーシネマとかで観てみたい。昨日の映画館では白っちゃけてしまってね……。

パムを演じたリリー・ジェームズ

私は『シンデレラ』で初めて観て、『ベイビー・ドライバー』の印象も強く残っているが、どちらも若いヒロイン的な女性を演じていた。本作でも同様の演技も見せるが、さらに「母」の演技も板についていて、幅の広がりと成長を感じた。

有名レスラーたち

ハーリー・レイス、リック・フレアー、ブルーザー・ブロディなど著名な選手も登場し、それぞれ別人が特徴を掴んで演じている。リック・フレアーは、頭から血を流しながら、その元凶であるケビンを憎むことなく飄々とコーラだかビールだかを飲んでゲップをしていた。プロレス番組でのインタビューでも、言葉巧みに相手を挑発するTHEレスラー的トークを繰り広げていた。ハーリー・レイス(ケビンに場外ブレーンバスターしてた)はかなりラフだった。

ラスト

感動的なのはやはりラストか。セリフで全て語られているようにも感じるが、重要なセリフを子役が言うので、説教くささはあまりない。涙をながすケビンが「男だから泣いちゃダメだよね」というと、二人の子どもが「ぼくもよく泣くよ」「泣いてもいいよ」的なことをいう。強くなくてもいいし泣いてもいい。それから、かつてケビンが兄弟や両親としたように、パムと二人の子どもとフットボールで遊ぶ。カメラはロングで見つめ続ける。

『不都合な理想の夫婦』よりもタチが悪いのは

冒頭に書いた通り本作は『不都合な理想の夫婦』と同様、家庭の崩壊が描かれているけど、同作よりもタチが悪いのは、一見一家が円満に見えること。『不都合~』は明らかに家庭に不協和音が生じているので、互いに秘密を抱え、「解決すべき関係性」だとすぐにわかる。ところが本作は、兄弟は仲が良く、父や母の言うことに従い、一見家族間で問題らしき問題は表にでていない(徐々に表面化するが)。だからこそ、その“呪い”の正体がなんであるかの発覚が遅れた。


以上です。

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