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映画の感想殴り書き 『パスト ライブス/再会』

『アイアンクロー』の感想に続き、『パスト ライブス/再会』の感想殴り書きを試験的に公開してみます。同じく様子を見つつ、必要に応じて削除するかもしれません。

鑑賞までの流れとか

アカデミー賞にノミネートされる前から評判の良さが耳に入っていた。その後ノミネートされたのは作品賞と脚本賞で、結果どちらも受賞は逃したけれど、この二つの賞にノミネートされるならばクオリティーは間違い無いだろうと思っていた。そして、鑑賞当日まで前情報を一切入れずに臨んだ。……はずなのに、韓国からアメリカに移住した女性が、韓国で過ごした幼少期に恋仲のような関係だった男性と、アメリカで再会する、みたいなプロットは何故か知っていた。無意識に知り得ていたのが怖い。きっと予告はどこかで観ていたんだろうなあ。

すごくよかった

韓国からアメリカへの移住、12年おきの運命的な再会など、シチュエーションこそ込み入ってはいるものの、正真正銘ラブストーリー。しかも濃いめの。(過去も描かれるが)現代劇のラブストーリー映画を観るのはしばらくぶりだったが、ナヨン(ノラ)・ヘソン・アーサーの三者の掛け合いに、ときに笑い、ときに涙を流し、ここ最近あまりお目にかかれなかった「直感的(素直)に楽しめる映画」(こと新作においては)だった。個人的には今年ベストテンに入れたいくらい。

良かったとこ

意味深長なダイアローグと、その台詞が必ずしも本音ではなさそうだと感じる複雑な表情の演技、それらの効果を増幅させる巧みな撮影。ときに唐突気味にシーンを終わらせたりときに長回しを用いたりと緩急のある編集、印象的な劇伴などなど、あらゆる要素が物語と登場人物の心情に浸らせてくれた。とりわけ私は映像の美しさ(撮影、構図、カメラワーク、フィルム撮影)に唸った。

イニョン

このラブストーリーの大きなテーマは「イニョン」(縁)で、輪廻転生的考えに基づく運命のようなもの。ナヨン(ノラ)とヘソンは節目ごとに、何か不可視な引力で再会し、その「イニョン」を感じさせる。24年ぶりの再会で二人が階段に座って話しているその後ろには、巡り巡って再会する運命を象徴するようなメリーゴーラウンドがある。また二人が慎重に互いの気持ちを探り合う会話はスリリングでもある。

ただの三角関係で終わらない

そんな二人と、あるいはノラ(ナヨン)とアーサーの夫婦の関係を軸とした、三角関係的なラブストーリーに終始するかと思いきや、ヘソンはアーサーに対しても「イニョンがある」という。出自も人生も全く異なるヘソンとアーサーが、こうして奇妙かつ深いシチュエーションで出会ったことが運命であり、特別なことであると。そうして、三角関係によって敵対心が生ずるラブストーリーのクリシェに陥らず、風変わりながらも平和な連帯が生まれる展開には驚きながらも胸を打たれた。ただ、ナヨン(ノラ)とヘソンが結ばれなかったほろ苦さも余韻として残っている。そこがまた本作の素敵なところだと思う。

表情の演技がうまい

人物が何かを話しているときに、「うわー絶対それ本音じゃないでしょーなにかを隠してるでしょー」となる場面がたくさんあって面白かった。それだけ表情の演技がうまい証拠だと。

ソウルの住宅の位置(高さ)

カナダへの移住前、韓国・ソウルでの下校シーン。ナヨン(ノラ)とヘソンの家が、坂の上、住宅地の高いところにあるとわかる。ソウルの住宅地が急勾配の坂にあることは、ポン・ジュノ『パラサイト』やホン・サンスの諸作品から知っていた。そして、家の位置が高ければ高いほど裕福だと認識していた。ナヨンの家からは窺い知ることができなかったが、ヘソンの実家は成長後のシーンで明らかになる。一目で裕福とわかる家で、やっぱりそうなんだ、と思った。ナヨンの家は、父親が映画作家で母親も何かの芸術に携わる仕事(忘れた)をしていたはず。家の雰囲気からはわからなかったけれど、裕福でなければできない暮らしだろう。

さらにいうと、下校の帰り道での二人の分岐点で、ナヨン(ノラ)はさらに高い場所へと登り、ヘソンは勾配の小さいほうへと歩いていく。今後の二人の人生を示しているかのよう。

印象的なショット

ファーストシーンでも登場する、バーのカウンター席で3人が並んでいる場面。これが終盤のクライマックスシーンにもなるが、その終盤のシーンでは、アーサーを完全にフレームの外に追いやる構図がありゾクッとした。ヘソン視点でナヨンを見るショットでは、その奥のアーサーがナヨンの体で隠れてその場から完全に除外される。その後、ヘソンがアーサーに「イニョン」について語りかけることになるが、この「アーサーを外においやるショット(およびヘソンの視線)」が、その展開をスリリングにし、意外性をうむ効果があったと思う。

兵役

兵役が描かれる。韓国の男性の半生を描くなら必須ともいえるし、本作においてはヘソンがナヨン(ノラ)を思い出すきっかけにもなっている。


以上です。

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