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映画パンフレット感想#19 『プリシラ』

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感想

印刷物の定型サイズよりやや正方形に近い、182mm×227mmの特寸サイズ。美術や衣装などビジュアル面の魅力がたっぷりで、かつ少女プリシラの視点で描かれた“思い出“的な側面をもつ本作に合わせて、写真アルバム感を演出しているように思えた。特寸といってもB5(182×257)より縦が30mm短いだけなので、違和感なく手に取り読むことができる。ちなみに表紙に印刷された「Priscilla」の文字部分のみツヤ出しの加工が施されている(おそらくシルク印刷のニス)。

映画はあくまでもプリシラを主人公として、プリシラの視点で出来事が描かれ映像が作られていると感じた。そのなかで、エルヴィスがプリシラを抑圧し束縛する様子が描かれており、二人が並んだ時の大きな身長差や、プリシラを演じるケイリー・スピーニーが少女の面影を湛える俳優であることからも、両者の力関係が見えた。ある意味ではグルーミング的でもあり、美麗な映像とは裏腹にグロテスクでもある。ただ、そこにエルヴィスを断罪するようなニュアンスは抑制されているように思え、絶妙なバランスで描写されていると感じた。

こうした点において、監督や俳優がどのような意図で制作に取り組んだのかが気になり、パンフレットを購入した。そして期待したとおり複数の記事で触れられており、好奇心を満たすことできた。具体的には、ソフィア・コッポラ監督へのインタビューや、プリシラ役を演じたケイリー・スピーニーへのインタビューなど。映画パンフでお馴染みの執筆陣による寄稿でも言及があった。

私はソフィア・コッポラ監督の作品に明るくないため、映画ジャーナリストの立田敦子氏とコラムニストの山崎まどか氏の寄稿には助けられた。両者とも監督のフィルモグラフィを振り返りながら、一貫するテーマ性や共通する描写が解説されており、本作で描かれたことについてもより理解できた。パンフ内で直接関連づけられているわけではないが、監督へのインタビュー記事内で、インタビュアーに問われた過去作との類似性について監督が語っており、先の寄稿の内容ともリンクする部分があって面白かった。

プロダクションノートでは、衣装・音楽・撮影など、様々な分野に関する情報が掲載されているが、個人的には美術に関する情報が興味深かった。ギレルモ・デル・トロ監督の『ナイトメア・アリー』でも美術を手がけたタマラ・デヴェレルがコッポラ監督とともに、何をイメージして劇中の世界を作り上げたのかが詳細に記されており、本作の映像のルックの本質を解き明かすようなものでもあった。

また、山崎まどか氏の寄稿内で、ドリー・パートンの楽曲「オールウェイズ・ラブ・ユー」とエルヴィス・プレスリーに関係するあるエピソードが紹介されている。下記Wikipediaの「ドリー・パートン版」の項にも同様の記述がある。

山崎まどか氏は、このエピソードをプリシラと結びつけて論を展開しており、私は思わず唸ってしまった。必読。

私はエルヴィスがホモソーシャルな関係性に甘んじて無邪気に楽しんでいる姿や、先にも述べたようなグルーミング的要素からも、作り手には否定的なニュアンスをそれなりに込めていると思っていたが、パンフレットから伝わる情報から再考するにそうでもなさそうだ。改めて映画は受け手の感じ方次第でいくらでも印象が変わるのだと実感した。

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