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#2 乙粋

洗練されていて、渋みのある色気が感じられること。ちょっとやそっとでは出せない、ある意味、最高級の褒め言葉。

 窓を開けて、春を感じる。空気の気持ちよさと、遠くから聞こえるプロペラの音。夏の次に好きな季節に、浸り始めている。

「今のあなた達は選択肢が多くてうらやましい」

 カウンター越しに彼女は言った。選択肢が多いと、今度は判断しないという選択肢が増えるんだよ。自分で選ぶことを諦めて、声の大きい人によりかかるだけの人生。◯◯さんみたいな人になりたいです、憧れです、なんて陳腐すぎる。

 世界は広いよ。物理的には。でも私の人生の中で触れる世界は、圧倒的に狭い。隣にいるあの人も、あの人も。隣にいるのに、まったく違う景色を見てるのに同じ時間を共有してる。

 今見てる世界の中で一つ抜けたら選ばれる。そんなもんだね。結局は相対的な判断しかできないようになってる。よく見て。100円玉は10円玉より小さいんだよ。でも価値がつくのはそれが100円だからで、みんなが価値のあるものだと思ってるから。たったそれだけのこと。

「乙だね」「粋だね」なんて言葉を交わしながら、いつかはその言葉にふさわしい人になりたいと、彼女から差し出されたグラスの氷をカラカラと回す。

好きだなと思っていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。