見出し画像

ルワンダの空を飛ぶ”医薬品”――Ziplineに見る「これからの物流」

 先日見かけた1つの投稿。WIRED編集長を務めた後、黒鳥社を立ち上げた若林恵さんのポスト。

 この投稿に、「ついに来たか!」と興奮したのだが、その理由を書いていたら、Ziplineについてのこれまでの整理にもなったため、せっかくだからと公開してしまうことにした。

ドローン×医療品×ルワンダ

 Ziplineは、簡単に言えばドローンベンチャー。だが、そう聞いて僕たちが思い浮かべるようなものとは、いくつかの点で異なっている。

 まずその形もよく思い浮かべるであろう複数のプロペラがついたもの(クアッドコプター)ではなく、飛行機のような形をしていて、「発射台からバーンと勢いよく飛び出した後に、渡り鳥のようにうまく風を捉え、電力の消費を抑えることができ」(後述の孫泰蔵氏の記事より)、往復100キロ以上も飛べるものだ。Ziplineのホームページをみていただければ、その姿をイメージしていただけるかと思う。

 ではこのドローンで何をするのかというと、上記の若林さんのツイートにあるとおり、「マスクや医薬品、献血用血液等」を配送している。彼らのテクノロジーの精度はすさまじく、飛ばしたドローンから、ピンポイントでパラシュート付きの荷物を落とすことが可能だ。これにより、どんな僻地であろうと、ニーズが発生してから短時間で必要な物資を届けることができるようになるのだ。

 なぜ、医療品なのか。たとえば血液の場合、慎重な温度管理が必要だが、えてして途上国ほどコールドチェーンが確立されておらず、ニーズのある所に迅速に届けるのが難しい。日本で暮らしていると想像するのが難しいかも知れないが、物流網が整備されていないせいで、救える命を救えないことがあるのだ。Ziplineは、この医療品の配送という複雑な課題に対して、無人のドローンを用いることで、早く、安く、必要なところに資源を届けることで解決しようとしている。

 ただし、航空の領域には、さまざまな規制がある。そんな彼らを迎え入れたのが、ルワンダだった。ルワンダの国土は丘だらけで、道路の大半は舗装されておらず、しかも雨期になれば冠水してしまうこともある。Ziplineは、テクノロジーを取り入れるのに積極的なルワンダ政府とともに、2016年10月から「世界初の国営救急ドローンサービス」を始め、強烈なインパクトをもたらしている。

 2017年の記事だが、Ziplineの創業時やルワンダでの話は、WIRED誌のこの記事によくまとまっている。今読んでも素晴らしい記事。

世界を変えるビジョナリーは、どう考えるのか

 実は、僕もZiplineの創業者ケラー・リナウド(Keller Renaudo)さんに会ったことがある。

 そもそもは、孫泰蔵さんの『週刊ダイヤモンド』での連載「孫家の教え」を担当していた頃に、Ziplineやリナウドさんのことを教えていただいたのが最初。その内容は、以下の記事でまとめている。

 ここで、Ziplineの技術やモデルにも感銘を受けたのだが、何よりも衝撃的だったのが、リナウドさんのビジョンだった。リナウドさんは、

「冷蔵庫が要らなくなる世界」

を目指しているというのだ。上記の孫泰蔵さんの記事から、長いですが、引用させてほしい(上記の記事の2ページめより)。

 僕は大きな可能性を感じます。なぜなら、コストが自動車やバイクで運ぶよりはるかに安いにもかかわらず、10倍近い速度で荷物を届けられるからです。この話はアフリカにとどまらないのです。
 ある日、ケラーから「泰蔵さん、アマゾンで1週間に何回注文していますか」と聞かれました。「週に1、2回ぐらい」と答えると、ケラーは「そうですよね。でも、これから1日5回は注文する日が来ると思います」と言ったのです。
 実はケラーは「冷蔵庫が要らなくなる」と考えていました。このようなドローンでの運搬が普及すれば、いずれは家庭の冷蔵庫すらも不要になるということでした。
 冷蔵庫が要らなくなるとは、さすがに驚きましたが、彼らは実際に病院から冷蔵庫を“なくす”ことを実現しています。まさにイノベーションだと実感しました。

テクノロジーとビジョンの理想的な関係

  テクノロジーというのは、本来的には達成したい目的のために使われるものだ。だが、現実では、手段であったはずのテクノロジーが目的にすり替わっている例をよく見かける。元鎌倉投信ファウンダーで、現在eumoの代表を務める新井和宏さんは、これを「手段の目的化の罠」と呼んでいる(『共感資本社会を生きる』p55)。

 しかし、Ziplineは違う。先のWIREDの記事には、リナウドさんのこんな言葉も紹介されている。これだけで、決してドローンありきではなく、ビジョン先行であることがわかる。

物流における課題を解決することで人の命を助ける

 ドローンにより、早く、正確に、安く配送することができれば、各家庭で冷蔵庫を持つ必要はなくなるのではないか。図らずも現在噴出している物流の問題も、構造から一変させてしまうのではないか。僕は、自分よりも年下のこの起業家が見せてくれた“未来”に、強く感動したのだった。

アフリカで進化した”ドローン”、ついにアメリカへ

 さて、なぜ僕が冒頭の若林さんのツイートに興奮したのかは、もうバレていると思う。いよいよ、Ziplineのテクノロジーとビジネスモデルが、彼らが生まれたアメリカに戻ってくるというのだ。果たしてこの動きがどんなインパクトをこれからもたらすのか。引き続き、注目していきたい。

 余談だが、僕がリナウドさんに会ったのは、2017年9月に開催された起業家たちの祭典「SLUSH SINGAPORE(スラッシュ・シンガポール)」。そこでの孫泰蔵さんとリナウドさんのトークも、記事にしているので、ご紹介して締めくくろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?