第146号『クオリティは「アニマの器」で決まる』

「現代の大規模ゲームソフト開発が抱えている大問題の発生理由と解決法」を考えてみたいと思います。

恐らくこれは『特効薬』的な話には決してならないと思います。

また、さすがに現役のゲームクリエイターで大規模ゲーム開発という仕事に従事している人間にしかわからない内容にはならないように書いてはいきますが、少しでも同じ問題を抱えている同業種・異業種の方々向けの内容になってしまうことは間違いないと思います。そんな読者のみなさんのヒントになればと思います。

まず現代のゲーム開発における最大の問題は【スケジュールの遅延】です。

「現代の」という表現をしてますが、別にこれは現代に限った話では無く昔から脈々と連なっている“未解決問題”です。

昔に比べてプロジェクトの規模が肥大化した現代のゲーム開発においてその被害がより甚大なモノになっているということです。

この記事では

なぜスケジュールの遅延が発生してしまうのか?

そして

その解決に向けて出来ることとは何か?

ということを考えていきます。

順を追って説明していきましょう。

例えばプレイステーション4で3Dアクションゲームを作るプロジェクトがあったとします。

そしてまず我々が行っているお仕事というものを「お客様の期待に応えること」と定義することから始めます。

その際に考えなければならない“最初の定義”というものはおおよそ以下のように分類されます。

【①PS4の3Dアクションゲームとしての期待値】
昨今発売されているPS4の3Dアクションゲームを分析すればおのずと見えてくる部分ですが、「今のPS4だと最低限これくらいの処理表現や派手さ・気持ちよさ・拡張性が当たり前に求められる」という感覚の部分です。これは人によって抱いてる印象は厳密にはバラバラかもしれませんが、実はだいたい共通項目として挙げることが出来ます。例えば2018年に発表された世界中のPS4の3DアクションゲームのPVを100本くらい見てください。そうすれば「おおよその傾向」が見えてきます。“なるほど、これくらいはどのタイトルも当たり前にやってるな”というのが見えます。それが世の中の「当たり前の期待値」というものです。

【②タイトルの世界観による期待値】
もしその企画が「妖怪モノ」だったり「伝奇モノ」だったりした場合には、ゲーム全体から“おどろおどろしい雰囲気”や場合によっては“筆タッチ”のエフェクトやUIやアクションが期待される、というモノです。そのタイトルが持つ雰囲気や世界観から期待されるであろうポイントをどう押さえるか?ということです。これも「当たり前の期待値」と言えます。

【③スタジオに対する期待値】
これは必ずしもイコールとは言えないと思うのですが、少なからず存在するので挙げておきます。そのゲームタイトルを手掛ける開発会社がある一定の実績を上げている場合には「そのイメージに対する期待値」というものがあるということです。弊社サイバーコネクトツーの場合には「少年漫画ノリ」だったり「超アニメ表現」だったり、ということになります。例えば“小島秀夫監督作品の最新作が発表!”となるとみなさん「ある一定のイメージ」を抱きますよね?それで発表された最新作が『ラブライブ!』のスマホアプリだったりすると“え?”ってなりますよね。(それはそれで見たい!って言う奇特な方もいらっしゃるかもしれませんが世の中の大半はそうは思わないということです)

①~③のようなこれらの「当たり前の期待値」に応えることがまず開発者として求められるのですが、これに更に以下の④が加えられた状態でゲーム開発は進行します。

【④開発者が“やりたい!”と思っていること】
クリエイターである以上これは必ず誰しもが持っている感情であり気概とも言える部分ですが、実はこれが一番やっかいで難しいのです。だって人それぞれでバラバラなのですから。もちろんそのプロジェクトの陣頭指揮を取る人間が“そのために”全体に対して大号令を敷くし“大きい方向性”を指し示すのですが、現代のゲームソフトはあまりにも巨大で要素が多く、またそれを実装するためにたくさんの開発者が存在します。そのたくさんの開発者がみんなそれぞれで“やりたいこと”を胸に持っていて少しずつ“その実現”に向けて日々開発を行っていくのです。

この④が加わることで簡単に開発は混乱をきたします。(だから駄目という話で決してありませんよ、現象の説明をしています)

それぞれ担当している開発者がそのゲームタイトルの一部分を担ってるが故に水面下で少しずつその“ズレ”は進行していくのです。

これはいくらディレクターやプロデューサーが“大きな指針”を指示していたとしても必ず起きてしまいます。だってそれは“大きな指針”であって“細かな指示”では決して無いのですから。そしてディレクターがひとりで100人を超える開発スタッフ全員に細かい指示を出すことは不可能です。

その為に組織があって役職があってチームがあるのですから。その細かな指示や伝播は他のスタッフに任せます。しかしやはりそこは人間が人間に伝えるワケですからまた少し歪みます。その上それぞれの「やりたいこと」が加算されて進むのでまたズレが生じます。

ズレが深刻な症状にまで達すると、発覚後に“やり直し・作り直し”となって開発に大きなロスを生むことになるのです。

そんな深刻な事態に陥らないようにする為に、制作進行というポジションの人間が第三者的に各セクションのタスクや工程管理を行ったりしますし、定期的なディレクターやプロデューサーによる部分チェックや全体チェックを実施します。

もちろんこうして未然にズレを防ぐことが出来る時もありますが、やはりそれは決してゼロにはなりません。

“いや違う、そうじゃない”

が少なからず発生してやはり“やり直し・作り直し”を行うことになります。

こういったズレが発生したことが無い・発生しない、というプロジェクトや会社を私は見たこともありませんし聞いたこともありません。

みんな必ずどこかでこうしたズレが発生しています。

これは我々がやっている仕事のお粗末さを正当化しようということではなくて、“どうしても少なからず発生してしまうことならばそれをゼロに近づけるために出来ることとは何か?”ということが今回の話の主旨です。

では、その解決法のための第一歩目に出来ることとは何か?

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コメント1件

ある制作現場では、工数を超えてブラッシュアップを続けようとするプログラマーの手をディレクターがキーボードから引き剥がして開発を終わらせた。という逸話を聞いたこともあります。磨き上げるのが熱。引き剥がす線を見極めるのが仕事なのでしょうか。
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