置いてけぼりの世界⑤

陸に染まったたいやきくん、というレシピ名の下にはたい焼き型の駄菓子にリンゴやモモの味がするグミの駄菓子がちりばめられている。これ考えたのメガネくんじゃない。こんなユーモアがあるなんて知らなかったわ。

またページをめくると"お菓子の家" という名前の下にシガレットで組み立てられた家の枠組みが書いてある。
シガレットは ココア、コーラ、メロンとあるらしい。チョコやケーキで作られた家を想像した私の期待を見事に裏切ってくれた。

「こんなにシガレット食べられないって」

クスッと微笑んで次のページを捲ろうとする。
右下にある薄いシャーペンの文字。「具合悪いの?大丈夫?明日は来れるといいね!」

席替えをする前、一時期隣の席になっていた女の子だ。
次のぺージも、その次のページにもメッセージが書かれている。

「ミクちゃんの案も聞かせてね!」

私の案...人気とか1番とか、他人の目とか
そういうものを全てなくして考える、私が描く自由ってなんだろう。駄菓子を使って、私は何を作りたいだろう。

玄関に1人座り込んでみた。小さい頃はパン屋になりたかったっけ。でも好きな人ができて、その人が別の人が好きって知って...そこから可愛くなるようにした。
あの子より可愛くないと私のことは見てもらえないから。

あのときの私は見てもらう為に1番でいなくちゃいけなかった。
でも今は誰に見てもらっているんだろう?
人は元々、誰にも大して写らないんじゃないかな。通りすぎた人の顔も30秒後には忘れている。
電車から眺める景色のように埋もれてしまう世界のために、すべての時間と、お金と、きっかけと...私らしさを捨てて寄り合わせの1番をとっていた。

部屋着のままサンダルを履いて外へ駆け出す。
今までなら想像もできなかった。アイロンで巻いていないからただのボサボサヘアーが揺れる。

「あー!!!」

むしゃくしゃを全て、腹の底から出した。今までの私を入れ換えるように大きく新しい空気を吸い込む。
近所のスーパーから駄菓子を沢山買ってきた。

1番を買わなくたって、決められた1番にならなくたって、私は自分が思う1番になってみせる。

駄菓子の組み合わせを考える。美味しさだって見た目だって!
私はもう、これまでの1番とは違う!!

「いってきます」
勢いも落ち着き、今度の私は不安に囲まれていた。
みんなの反応が怖いな。
新しいことを始めるのはいつだって不安だ。それに今まではランキングで一定の評価は保証されていたし。
自分の道をいくって何て勇気がいることなんだろう。

「あ、ミクちゃん!!」
呼び止めた声に振り返る。
「あれ、なんか服ちょっと変わった??」

私の服は以前よりラフになっていた。キラキラ飾られていない。
「やっぱり、変かな?」
「えー全然!似合ってるよ!」

たった一言なのに、言われ慣れていた似合っているという一言に安堵した。

「ありがとう」
「いつもは自信たっぷりなのに、なになにどうしたの??」
「みんなのレシピ読んで気づいたんだ。自分の感性の大切さに」
「なんか難しいこと考えてンね」
「え?」
「楽しいことを楽しいだけやる。それが自分らしさってやつでしょ!楽しめばいいのよ!」
「...うん!」

皆で駄菓子を買い、教室を飾ってお店を作る。ガタガタの段ボールでできたひどい看板がお出迎え。男子がかわいいメイド服を着れば話題性もバッチリ。今日だから許される空間を使った自由な創造。

「それじゃあ最終日、よろしくな朝比奈」
「全品完売目指すわよ!」

私と安藤の拳がぶつかる。
髪もバッサリ切った私がお客様に運んだのは、一番人気というメニューだ。

Amazonで注文中に着想。
私は文化祭でお化け屋敷やりました!ナースになって...

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