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チャレンジ島ごはん

夫と付き合って間もなくの頃、忘れられない会話がある。
今でもよく覚えている。あれは数年前、年の暮れの頃。
東京は調布のスシローで、遅めのランチを向かい合っていた時だった。
雑談の合間に尋ねたのだった。そういえば苦手な食べ物とかあるかな。ご飯作るときに気を付けるから教えてね。
今振り返ると大変初々しい私の発言を受け、彼は少し悩んだ後に答えた。
いやー、特に食べれないものってないんだけど。あえて言えば。
そう前置きをして、彼は続けた。
「あえて言えば、ヤギの味噌汁」

この話は、その後わたしの鉄板の持ちネタとなった。
ヤギって。食うのか。ヤギを。そして入れるのか、肉を、味噌汁に。

伊良部島に移住して、なんだかんだで一ヶ月が経過した。
ヤモリの鳴き声はすっかりお馴染みになった。ヤモリは顔もフォルムもすべて可愛いと受け入れているが、この前トイレに突然出現した時は驚きのあまりに絶叫した。なにせ動きが早すぎる。想像の二倍は素早かった。人間として無防備な状態の時に、後ろから現れるのは勘弁してほしい。

閑話休題。

食生活は、普段はそこまでギャップを感じることもなく、内地と似たようなものを基本的には食べている。肉も魚も、宮古島のスーパーを歩く限りでは、そこまで内地と大きなギャップは感じない。敢えて言えば、精肉売り場で豚骨つき肉とぶつ切り肉の占める割合が高い(さすがソーキ汁の文化)という程度だろうか。

食生活の違いを強烈に感じるのは、地元の人々と直接触れ合う時だ。
わたしの場合の地元の人とは、すなわち義実家を意味する。

ある日におばあの家へ行くと、この前に親戚が来たから用意したというヤギ汁をいただいた。ヤギ汁は、お祝い事とか集まりごとで振舞われる定番料理だそうだ。
散々持ちネタとしてお世話になったヤギ汁、初挑戦であった。噛み続けるとちょっと癖はあったけど、美味しかった。味噌は赤味噌系だった。
余談だが、ヤギ汁を苦手だと言っていた当の夫も、調理法によっては食べられるようになったらしい。油っぽさが抜けていないと、臭みが強くてキツいとのこと。あんなに可愛い顔なのに臭いのか、ヤギ…。

ある日に宮古島まで義母が車で迎えに来てくれた時、家にカメがあるから食べに寄らないかと誘われた。カメ。カメってあれか。浦島太郎のあれか。カメ?えっカメ?カメですか。多分三回くらい確認した。郷に入っては郷に従えというよなあと、ちょっと躊躇いはありながらも食べることにした。鶏の胸肉っぽくて、アッサリ味で美味しかった。脂はプルプルで黒かった、ちょっと見た目に抵抗があったけど、勧められるままそれも食べた。うん。イケる。

野菜は買う必要がないよ、勝手にみんながくれるからねえと義母に言われた。いやいや、いくら周りが畑ばかりと言っても流石に大袈裟だよ〜と思っていたのだが、気付けば十日ほどろくに野菜を買っていない。
その辺りで生っていたからと青パパイヤを渡される。人づてに貰ったからと大量の枝豆をいただく。おばあからは畑に生えていた紅芋と人参を貰う。これも食べられるから!と謎の草も言われるままに摘んで、お浸しにする。裏手のおばあちゃん家で火災報知器が誤作動していたのを助けたら、お礼に瓜と人参を貰う。人参率が高い。義母からオクラも山のようにいただく。ついでに特売だったという卵もいただく。旦那の実家に生かされている気がするので、せめてと常備菜のマカロニサラダを物々交換する。こんなのでお礼になっているのだろうか。

島の野菜は単純に面白い。先日、見た目が長芋っぽい白い芋をいただき、試しに輪切りにしたら中身が紫だったのは仰天した。取りあえず素揚げにしてみたら甘かったので、二度驚いた。

↑すべていただき物。枝豆超おいしい。

そのうちチャレンジしたいのは魚だ。角度によって、青や緑の金属質な色に光るイラブチャーという魚がある。いかにも南国といった雰囲気の魚だ。伊良部島のスーパーで売っているのを見かける度に、いつも気になっていた。

ちなみにお刺身は食べたことがあるが、淡白ながらムチムチした食感でとても美味しい。
塩煮にするのが一般的らしいので、近々チャレンジしてみたい。

食べることが元々好きなこともあり、島の食べ物を口にすることが土地に馴染むことに繋がるといいなと、勝手に思っている。
食生活は土地を映す鏡だから、と言えば大袈裟で、単純に知らない食材に出会うことも、それを口にすることも今は面白いのだった。

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