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白い病

"戯曲が存在するのは、世界が良いとか悪いとかを示すためではない。おそらく、戯曲を通して、私たちが戦慄を感じ、公正さの必要性を感じるために戯曲というものが存在するのだろう。"1937年発表の戯曲である本書は、2020年にあらためて新訳された『疫病か、争いか』時代を超え理性を問いかけてくる一冊。

個人的には、昨年に初めて緊急事態宣言が出た4月から訳者が『この状況に応える言葉や文学は多くの人が求めているだろう』とnote上で公開していた事を知り、興味を持って手にとりました。

さて、そんな本書は『白い病』と呼ばれる50歳前後になると皮膚に大理石のような斑点ができ、しまいには死に至る未知の伝染病が広がる架空の軍事独裁国家を舞台にして、第一幕『枢密顧問官』第二幕『クリューク男爵』第三幕『元帥』と、特効薬を発見したという貧しい町医者が現れたにも関わらず、破滅に向かっていく様子を描いているのですが。

まず、やはり前述した経緯で新訳された事もあり、昨年の2020年から続く【新型コロナによる社会的混乱を意識して読んでしまう】わけですが。賛否はあれど【ワクチンの接種も始まり】ミャンマーの軍事クーデターは起きても、少なくとも表面上は【大戦争は起きていない】2021年現在、それでも混乱期を経て【総括する時期ともまでは言えず】何とも複雑な読み心地でした。

それでも、最初に引用した著者が戯曲執筆直後に書いた『作者による解題』ではないですが。戯曲というのが【明快な答えを提示するものではそもそもない】とすれば、やはり現状でも充分に自身の理想や社会的立場を優先する主要人物たちや、メディアを通じた情報に分断され、右往左往するしかない名もなき群衆たちの様子に【既に起き、あるいは進行形の様々な事を重ねて】感情や記憶が想起されるわけで。本書を1人で読むだけでなく、読書会などで【様々な人と対話し、意見を聞いてみたい】と強く思いました。

普遍的な名作戯曲としてはもちろん、また本を切り口に同時代的な感情を共有したい人にもオススメ。

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