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掃除婦のための手引き書

"掃除婦が物を盗むのは本当だ。ただし雇い主が神経を尖らせているものは盗らない。余りもののおこぼれをもらう。小さな灰皿に入れてある小銭なんかに、わたしたちは手を出さない。"2019年邦訳の本書は没後11年目に再発見された著者のユーモアと労働者階級のポエジーきらめく傑作短編集。

個人的には2020年本屋大賞の翻訳小説2位等で書店棚に並んでいた時から気になってましたが、今回ようやく手にとりました。

さて、そんなカバーが【若かりし時の著者自身】である本書は2015年に没後11年目にアメリカで出版され話題になった同タイトルの43篇のうち、24篇を選び翻訳したもので、ほぼすべての作品にシングルマザーとして苦労しつつ、アルコール依存症や病気に苦しんだ著者の実人生が反映されつつも【私小説的な密接した泥臭さはなく】むしろクールに突き放し、ユーモアも忘れない【多面体でカラフルな作品たち】が収録されているわけですが。

個人的には(表題作も魅力的ですが)中でも見開き1ページで完結するも鮮烈な印象が残る『わたしの騎手(ジョッキー)』コインランドリーでの年寄りインディアンとの対話『エンジェル・コインランドリー』著者自身の刑務所での創作教室体験を受刑者側視点で描いた『さあ土曜日だ』アルコール依存性の主婦を描く『どうにもならない』あたりが、とても面白かった。

また【予想もつかない言い回しや展開、実感をともなうイメージがつきまとう】独特かつ魅力的なテキスト(原文は未読ですが)を読みながら途中『よくぞ翻訳したな!』と、表紙をあらためて見直すと訳者は『エドウィン・マルハウス』(スティーヴン・ミルハウザー)や『中二階』(ニコルソン・ベイカー)といった、これまでも癖のある文体の翻訳で知られた岸本佐和子。というのに大いに納得(相変わらず良い仕事されてます)

アメリカ労働者階級や家族に寄り添った魅力的な短編集を探す方へ、また、レイモンド・カーヴァー、リディア・デイヴィスをはじめ、多くの作家に影響を与えた『アメリカ文学最後の秘密』としてもオススメ。

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