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オーランドー

"あの時は追いかけたけど、今は逃げる側。どっちの快感が大きいか?男のか、女のか?どっちも同じかもしれない?いや、これこそ最高にいい気持ち"1928年発刊の本書は"文学における、最も長くて最も魅力的な恋文"にして奇想天外、ユーモア溢れる隠し絵的なメタ伝記、両性具有ファンタジー。

個人的には著者の『灯台へ』『ダロウェイ夫人』といった"意識の流れ"作品は率直に言えば読みづらくて苦手だったのですが。一転して読みやすいフェミニズム批評『自分だけの部屋』の『対としての本書』に興味をもって手にしました。

さて、そんな本書は著者が恋愛していた【ヴィタ・サックヴィル=ウェストの一族の歴史をベースに】して、急に思いたって一年足らずで書き上げた作品で。一応の大雑把なあらすじとしては6章にわけて【36歳の女性にして360歳の両性具有者】オーランドーの"伝記"として、"美少年"オーランドの成長とスキャンダルを描く1章、失恋から文学活動、宴会に明け暮れる2章、7日間の昏睡から目覚めると女性になった3章、英国に戻り社交会に出入り、文士たちのパトロンになる4章、海の男と結婚する5章、そして6章では、詩人として成功し、男子も出産したオーランドーが飛行機で帰ってきた夫を迎えて終わりとなるわけですが。

まず、メタフィクション文学として、多面的な読みが可能なことは読み始めてすぐ伝わってくるわけですが。作中に登場する人物や英国社会の当時の世相がわからなくても、当時の恋愛相手のヴィタ、そして著者周辺の"身内"ブルームズベリー・グループの仲間が楽しめる様にサービス精神旺盛に【ノリノリに書いている】著者の姿が浮かんでくるようで、新鮮な印象を受けました。("伝記作家"として始終読者相手に過剰に語りかけてくるのも面白い)

また、本書の翌年に出版されたケンブリッジの女子学生に向けての講演に手を加えた『自分だけの部屋』"女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分ひとりの部屋を持たねばならない"で有名な作品にも繋がる著者の思想が、本書の主人公のオーランドーが自由自在の様で社会の要求次第で【受動的に変化させられる】様子や、"伝記作家"の【語り手としてのぼやき】から感じられるのも非常に興味深かった。

上品な知的ユーモア溢れるメタ小説として、また『自分だけの部屋』が好きな方にもオススメ。

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