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崩れゆく絆

"オコンクウォはウムオフィア村の九つの集落の隅々、そのかなたにまで名を馳せていた。彼がつかんだ名声はたしかな個人の功績によるものだった。"1958年発表の本書は植民地支配以前のアフリカの高度な共同体と豊かな文化を描き、アフリカ独立機運の最中、世界中で絶賛された『アフリカ文学の父』の最高傑作。

個人的には、主宰する読書会の課題図書として。はじめてアフリカ文学を手にとりました。

さて、そんな本書はナイジェリア出身、英国育ちのイボ人作家である著者が、古くからの呪術や慣習が根付くウムオフィアという村に住み、黙々と畑を耕し、あるいは獰猛に戦い、名声と財産を気づいた男オコンクウォとその家族を中心に三部構成のうち、前半の三分のニを占める第一部ではウムオフィア村の生活や文化、慣習を【あえて反復多く、冗長に描いた後】二部、三部は対照的に、次第に加速するかのように【直線的に破滅へと向かっていく】のですが。

まず、最初に感じたのは(『はじめてのアフリカ文学』とあって、難解なのかな?と率直に言えば身構えるような先入観があったのですが)素朴かつ簡潔な【意外な読みやすさ、物語自体の普遍性】に対する驚きでした。本書では伝統的、悪く言えば『保守的・閉鎖的な共同体』が白人、そしてキリスト教により次第に変化していくのですが。私としては【黒船からの幕末、明治維新の鎖国日本】と重ね合わせながら、一方で全く知らないアフリカ文化の芳醇さが鮮やかに描かれていて、最後までとても楽しませていただきました。

また本書は、直接的にはコンラッドの『闇の奥』そして数多くのヨーロッパ文学で描かれてきた人種差別的、ステレオタイプな偏見に満ちた『アフリカ』に対する、対立ではなく『対話』として【アフリカ人自らによるアフリカ文学】として自身のルーツを回復すると共に世に問い、アメリカの黒人作家初のノーベル賞作家として知られる『青い瞳がほしい』のトニ・モリソン他に『アフリカ文学の父』として、原点的な影響を与え続けているのですが。こちらは、私としては『森鴎外』や『夏目漱石』的存在の作家なのかな?と脳内変換しながら受け止めていたり。

なにより『優れた普遍的な物語』として、またアフリカ文学の最初の一冊としてオススメ。

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