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なめらかな世界と、その敵

"この、なめらかな世界の人間は、誰もが絶対の理想郷に生きている(中略)彼らにとって、唯一の可能性を生きざるを得ない僕たちは、低次元の生物であり、理解できない存在であり、恐怖の対象であり、何より世界の敵なんです"2019年発刊の本書は国内SFファン待望にしてベストSF2019国内篇1位にも輝いた傑作SF短編集。

個人的にはSF好きの友人に紹介されて、前情報なしに手にとりました。

さて、そんな本書はいくつもの並行世界を行き来する少女たちの百合的青春を描いた表題作他、ありえたかもしれない日本SF偽史『ゼロ年代の臨界点』伊藤計劃"ハーモニー"トリビュートの『美亜羽へと送る拳銃』妹から姉への手紙で綴る書簡体作品『ホーリーアイアンメイデン』旧ソ連を舞台にした歴史改変東西電脳対決『シンギュラリティ・ソヴィエト』そして書き下ろし作品、謎の低速化に巻き込まれた新幹線乗客と取り残された人々のドラマ『ひかりより速く、ゆるやかに』の計6作品が収録されているわけですが。

まず結論から。どれも面白かった!

なんでしょう。その理由はどれもが違う味付けながら、収録作全てにグレッグイーガン的なSFギミック、パロディ含む膨大なSF知識を散りばめつつも、決して『難解だったりマニアックにならず』むしろ映像が自然に脳裏に浮かんでくるような【スピード感ある展開】そして解説でも指摘しているように【登場人物たちのやりとりの"エモさ"】が『爽やかな読後感』を与えてくれるからだと個人的には感じました。

また、作品感想とは別に触れておきたいのは。文庫本となる本書では"著者渾身の一万字あとがき"が併録されているのですが。これがまたSF、特に【国内SFへの愛情が溢れかえった内容】で、またコロナ禍や2022年現在へのロシアのウクライナへの侵略行為を受けての【自らの意思による作品修正】も含めて、著者の誠実な人柄が感じられて好印象でした。

2010年代以降の国内SF注目作として、また、普段SFを全く読んだことのない人にもオススメ。

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