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火星夜想曲

"父さん、父さんから聞かされたすべてのことを記す一冊の本を書こうと思っているんだ。あの驚異や奇跡のすべてをね。喜びや悲しみ、勝利や敗北をみんな"1988年発刊の本書は、ひとつの町が忽然と誕生してから跡かとなく消え去るまでの半世紀の物語をマジックリアリズムで描いたSF版『百年の孤独』的一冊。

個人的には『百年の孤独』がとても面白かった!という話をSF好きな友人に話した時に逆に紹介されたのが本書だったりします。

さて、そんな本書はテラフォーミングされた火星を舞台にして、とある砂漠のオアシスに次々と人々が辿り着き【一つの町(デソレイション・ロード)が幻想的に発展していく】までが前半、後半はそれらの人々の息子や娘たちが様々な立場になり絡んでくる事で【怒涛のハードSFガジェットが大量導入されるカオス展開となっていく】のですが。

著者自身が『魔術的リアリズムの小説としてSFが可能であることを証明して見せたかった』と述べている様に、特に本書の前半はそれが顕著で楽しく、またSF的展開を見せていく後半も、こちらはこちらで様々なSF作品へのオマージュが随所に織り込まれていてニヤリとさせられてしまった。

また、登場人物たちが多く【章ごとに語り手の違うエピソードが描かれている】事で本書冒頭の家系図(この辺りも『百年の孤独』を連想させられます)を何度も【誰だっけ?】と確認しながら読み進めていたのですが【登場人物たちの成長や変化の群像劇】として、また各キャラクター造形や結末といった細部も含めて、最後までよくまとめきったなと感心しました。

マジックリアリズム、そしてライトではないSF好きな誰かへ。また群像劇的な家族の物語が好きな人にもオススメ。

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