近未来SF小説

自分を証明できるもの。あとは精神と身体だけ 『わたしを証明する全て』

ああ、なんて日だ!
 ビルの入口に佇み、田中圭太はそう思った。
 彼が憤慨している理由は二つある。彼が今遅刻寸前であること、そしてビル入口に設置された入館認証を、なぜか通り抜けられないことであった。一つ目に関しては完全に圭太の自業自得である。普段から積極性の足りない彼は、昨日の帰り間際に上司に雑用を押し付けられてしまった。そして、「なんで俺が、でも別に家に帰ってもスマホを弄るだけだしな」と思いなが

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退廃抵抗 1-1【お試し版】

わたしは孤独だ。普通に話す友達はいる。家族ともそれほど仲が悪いわけではなく、それなりに会話する程度には普通だ。そう、わたしは普通なのだ。それゆえにわたしにはわたしという存在を特別足らしめる事柄がない。そしてその悩みを共感してくれる人がいない。話せるような相手もいない。だからわたしは、孤独だ。

 この世界はつまらない。つまらなすぎる。退屈で辟易している。代わり映えのない日常にうんざりしている。家族

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近未来建築診断士 播磨 第4話 Part4-7

近未来建築診断士 播磨

第4話 無自覚な従僕たちのマンション
Part.4『現場調査』 -7

【前話】

 ■

 自動ドアが背後で閉まる。吹き抜けから追い立てるように吹いていた生暖かい風が弱まり、心地のいい冷気が身を引き締めてくれた。夕日が住宅街の影を長く伸ばし、道に落としている。思ったよりも遅くなってしまった。

 曲がり角から呼び出しに応じた車が走りこんできた。停車を待たずにそれぞれドア

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感謝の極み(ズパッ)
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近未来建築診断士 播磨 第4話 Part4-6

近未来建築診断士 播磨

第4話 無自覚な従僕たちのマンション
Part.4『現場調査』 -6

【前話】

 掲示板のようだ。薄い緑青色で統一されたそこには、理事会からのお知らせや清掃班の当番表、マンション内で必要な電子書類の書式が並ぶ。その一部に防犯活動のページもあり、つい先ほど理事会役員にむけて不審者対策のための召集がかけられていた。

 タッチしてその記事を呼び出すと、机に広がる電子掲示板

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俺のほうが好きだよ!
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近未来建築診断士 播磨 第4話 Part4-5

近未来建築診断士 播磨

第4話 無自覚な従僕たちのマンション
Part.4『現場調査』 -5

【前話】

 階段手摺から身を乗り出して下をうかがう。
 誰かいる。一人のようだ。ゆっくりと登ってくる。

 ARグラスに春日居のチャットが光った。

『どうする。6階に出る?』
『ワイヤ長さ不足。降りれない』

 チャットするうち、その人物は顔を上げる。手摺越しに目があった。

 40台前半くらいの

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『活力がチャージされました』
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近未来建築診断士 播磨 第4話 Part4-4

近未来建築診断士 播磨

第4話 無自覚な従僕たちのマンション
Part.4『現場調査』 -4

【前話】

『お前何したんだ』
「調査に持ち込むな、と言われた機械を持ち込みました」
『ほんとにそれだけか?』
「はい」

 うそだ。

 監視カメラ直接接触型のハッキングツールや可変万能鍵も持ち込んでいる。これが警察に見つかればそれだけで両手が後ろに回る。
 刑事も察していることだろう。スピーカー越

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俺のほうが好きだよ!
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近未来建築診断士 播磨 第4話 Part4-3

近未来建築診断士 播磨

第4話 無自覚な従僕たちのマンション
Part.4『現場調査』 -3

【前話】

 ■

「室内の壁面、天井面、床面の撮影完了です」
「確認しました。おおむね図面通りですね」

 インターホン、壁体内の劣化測定器、火災報知機など、管理システムとの通信機能がある設備を全て確認したが、どこにも異常は見られなかった。詳しい結果はジニアスによるチェックを待たなければいけないが、

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俺のほうが好きだよ!
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永遠の方舟 (10-4)

治療を拒否した麻実だったが、左足をなるべく悪化させないために、剣兵と遭遇するまで涼介に背負われることには同意した。麻実の剣は晴佳が持ち、涼介の剣は小牧が持った。小牧、麻実を背負った涼介、晴佳の順で女子トイレから出た。階段を降りようとした時、下から足音が聞こえてきた。

「さっそくお出ましか。つくづく運がないな」

 小牧は嘆いた。麻実は涼介から降りて、剣を受け取った。

「階段では戦っては駄目。剣

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おおっ! ありがとうございます。
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近未来建築診断士 播磨 第4話 Part4-2

近未来建築診断士 播磨

第4話 無自覚な従僕たちのマンション
Part.4『現場調査』 -2

【前話】

 ■

 昼食を挟んで地下と1階の調査が終わった。時刻は14時を回ったところ。吹き抜けに流れる空調の風は、動き回って疲労した体には蒸し暑く感じた。

「ほんとに付き合わなくてもいいのかい?」
「ぼく達の仕事ですから。終わったらまた町内会館に伺います」

 元木町会長は午後の調査に同行するつ

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楽しんでいただけて何よりです
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永遠の方舟 (10-3)

四人の順番は、誰が決めたわけでもなく自然に、小牧、涼介、晴佳、麻実と変わっていた。これはそのまま精神状態が良好な順番だった。平らな廊下では左足首の痛みを隠して三人についてゆくことができた麻実だが、階段を降り始めると我慢できなくなった。前の三人が踊り場に着いても、麻実は三分の一も下りていなかった。

 麻実の異常に最初に気づいたのは、一番離れていたはずの小牧だった。踊り場から足取り軽く駆け上がってき

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おおっ! ありがとうございます。
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