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アウシュヴィッツの図書係

"『これが君の図書館だよ。ささやかだけどね』彼女の反応をそっと見ながらヒルシュが言った。図書館と言えるほどのものではなかった。本は八冊しかなく、ずいぶん傷んだものもある。でも本は本はだった"アウシュビッツに存在した図書館の話を描く本書は人の尊厳について考えさせてくれる。

個人的には刑務所図書館について調べている中で本書と出会ったのですが。【アンネの日記】や【夜と霧】とはまた違った視点、強制収容所に囚人たちによってひっそりと作られた"学校"、そこにあった8冊だけの秘密の"図書館"を舞台に、図書係として奮闘する実在の少女ディタ、そして重圧に苦しみながらリーダーとして振る舞うヒルシュの姿を軸に、ジャーナリストである著者が、膨大な関連資料を背景に、それでも描けない部分を【真摯なフィクション】で補っていて、本の与えてくれる【希望としての生きる力】を感じることができました。

また、本書では前述の2人とは別に、様々な人物たちが登場し、SSとユダヤ人少女の恋愛、脱獄計画の実施と目まぐるしく場面転換しながら、さながら群像劇の様に小さな物語が展開していくのですが【強制収容所の残虐さ、悲惨さ】の中でも、それぞれに【生き延びる為に葛藤する】姿が息遣いすら感じるかの様に細かく描写されていて印象に残りました。

最後に著者の後書きから抜粋。

"もしも美しいものを見ても感動しないなら、もしも目を閉じて想像力を働かせないなら、もしも疑問や好奇心を持たず、自分がいかに無知であるかに思いが及ばないなら、男にしろ女にしろ、それは人間でなく、単なる動物にすぎない"

人は【パン(とサーカス)のみに生きるべからず】個人的な意見で恐縮ですが、国内では貧困や格差で不満がたまる中、まるで【目を背けさせるかの様に】オリンピックや万博を盛り上げる記事が喧伝されている様にも感じられる今だからこそ。警鐘を鳴らす意味でも多くの人に本書を手にとってもらいたいと思いました。

本のもつ力、人間の尊厳について考えたい誰かに、また強制収容所について、残虐さや悲惨さとはまた別の視点から考えたい誰かにオススメ。

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