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日本古典と感染症

"この一冊は、『万葉集』から夏目漱石が書き残した作品までをなるべく等距離に置き(中略)過去の大切な証言が『今』を生きるわたくしたちの耳にも目にも届くことをめざして書かれたものです"2021年発刊の本書は研究者たちが日本文学史を感染症から捉え直した知的好奇心が刺激される論考集。

個人的に、ざっくりした括りで恐縮ですが。日本人以上に日本文学に詳しいのでは?と、ドナルド・キーンの本は手に取ってきましたが。ロバート・キャンベルの本は読んだ事がなかったので、タイトルにも惹かれて手にとりました。

さて、そんな本書は2021年3月までロバート・キャンベルが館長を勤めていた国文学研究資料館も緊急事態宣言下で閲覧室や展示室も閉鎖された中、配信した『日本古典と感染症』がキッカケとなり、国文学研究所の研究者を中心に様々な日本文学研究者15人が『感染症』をテーマに、万葉集における天然痘の記載から政権への批評性を読み解いたり、平安時代の感染症からの逃避に現在のコロナ禍生活を重ねたり、はたまた夏目漱石作品における腸チフスの利用の仕方など【古代から中世、近代までの日本文学作品】に様々な切り口で論考を寄せているわけですが。

研究論文とあって【それなりに日本文学、日本史の知識前提は必要とされる】内容だと思いましたが、そもそも、例えば『源氏物語』や『それから』といった文学作品を『感染症と関連づけて読み解く』しかも、直接ではなく『余白から推論を重ねていく』各研究者の【深読みされた論文】はどれも大変刺激的でした。

また本書でも紹介されてますが。京都在住、しかも自社仏閣巡り好きな私としては、古都で幾度も感染症が発生したことが現在でも【様々な信仰や伝統行事として残っている】ことを日々、実感しているわけですが。そういった意味で特にロバート・キャンベル他、海外の研究者による疫病が【撲滅対象ではなく(むしろ)『もてなす』べきものだった】とか【神仏との距離感】に対する指摘に関しても共感しながら楽しませていただきました。

日本文学、日本史好きな方にオススメ。

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