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街場の大阪論

"タコ焼きだ、いや串カツだ、などということではなく、おいしいものはどこの店に入って、何を注文しても食べられる。大阪は本来そういう街であるはずだ。"2009年発刊の本書は名物編集者による大阪という街への消費者ではない【あくまで生活者としての】眼差しが確かに感じられ心地よい。

個人的には、以前は大阪の街歩きガイドもしていたこともあって、著者の語る街的な大阪紹介には随分とお世話になったのですが。急激な観光客増加により、国際化、アジア化し、また【街としての姿を変えつつある】大阪ミナミについて、ふと10年前を振り返ってみたいと思い、久方ぶりに本書を手にとりました。

さて、本書では"その土地、現場にダイビングしていくような行為で"大阪のディープサウス、全国的には"だんじり祭り"で知られる【岸和田出身の著者ならではの視点】で、串カツからお好み焼きにてっちり、通天閣にくいだおれ太郎、そして故人でありアメリカ村の立役者である日限萬里子とのエピソードなどが縦横無尽に語られているわけですが【観光客、消費者向けの情報】とは違う"『笑わしてナンボ』の精神があるが、それと人に『笑われてナンボ』とは違う"大阪人の気質や矜持が端々から感じられて、生活拠点を縁あって大阪に置いている1人として、代弁してくれているかのような気持ち良さを感じました。

また、巻末の内田樹氏の解説も面白い。お好み焼き屋について語る著者の言葉から【お好み焼き屋でのふるまいに要求される資質は探偵の推理に似ている】とフランツ・カフカやポールオースターや村上春樹の物語の主人公との近似性を指摘したり、著者の『街的な』とオルテガ・イ・ガセーの『大衆の反逆』との比較など。流石のサービス精神というか、あそび心というべきか。思わずぷぷっと吹き出してしまいました。

10年前の大阪ミナミを振り返りたい誰かに。また目の前の【観光客、消費者向けのサービス提供】に追われて、少し違和感を覚え始めている大阪在住の誰かにもオススメ。

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